「『ロマネ・コンティ』と同じ製法で仕込んだピノ・ノワールが2300円台!」という記事がバズっているようです(あえてリンクは張っていません)。掲載されているサイトは「Tabi Labo」です。Tabi Laboといえば数年前にパクリ記事などでたびたび「炎上」騒ぎを起こしていましたが、最近はそういう話題もなく、どうなっているかよく知らなかったのですが……。

2007 Romanee Conti Wine Bottle at Valentino"2007 Romanee Conti Wine Bottle at Valentino" by Muy Yum is licensed under CC BY-NC-ND 2.0


この記事の主旨としては、コスパのいいピノ・ノワールは何かということで、ソムリエのお薦めを聞いています。

紹介されているワインは「アルタ・マリア」のピノ・ノワール。このブログでも何回もお薦めとして掲載したワインです

「鼻を近づけると紅茶葉のようでもあり、森の中にいるようなグリーンと土のニュアンスがする」と表現されており、このニュアンスは「全房発酵」によるものだとしています。

そして全房発酵について「ちなみに、一度はその名を聞いたことがあるはずの“ブルゴーニュの女王”、あの『ロマネ・コンティ』も同じ製法だって知ってた?」と書いており、これがタイトルにつながっているわけです。

確かに全房発酵(ホールクラスター)を100%あるいはそれに近いレベルで使うワイナリーはそれほど多くはありません。それでもいくつかは思い付きます。ブリュワー・クリフトン、カレラは昔から全房ですし、サムサラ、ドメーヌ・ドゥ・ラ・コート、サンディなどもあります。100%でなければ数限りなくあります。ホールクラスターをほとんど使っていなかったスティーブ・キスラーも、今のオキシデンタルではその比率を増やしています。むしろ、畑やヴィンテージによって変えているというのが普通でしょう。

もちろん、これらはすべてカリフォルニアに限った話なので、他の国のワイナリーでももちろんホールクラスターを多く使うところはたくさんあると思います。

つまり、この記事で一番問題だったのは記事の内容そのものというよりも、それほど珍しくない共通点について「ロマネコンティと同じ」とタイトルで持ってきたところだと思います。

ちなみに、昔からカリフォルニアのピノ・ノワールでロマネコンティと比較されたり引き合いに出されてきたものというと、カレラとオー・ボン・クリマがあります。

カレラは「ロマネコンティ」の畑で枝を拾ってきて、それを畑に植えた「ロマネコンティ」と同じブドウを使っていると言われていました。現在はそれに対しては否定あるいはノーコメントということになっていますが、創設者のジョシュ・ジェンセンはこの問題について、次のようにも語っています。

クローンがロマネ・コンティから来たものであろうがあるまいが、それだけでロマネ・コンティのワインと同じ味のワインが造れるわけじゃない。単に、にせものではなくて、素性の知れた、よく選別されたピノ・ノワールの苗を手に入れたということにすぎない。野球のピッチャーにたとえれば、ツーストライクを取ってあとはとどめをさすだけだという心境ではなくて、まだ相手はバッターボックスに立っただけで何でもありという感じかな。
『ロマネ・コンティに挑む―カレラ・ワイナリーの物語』(マルク・ド・ヴィリエ著、阪急コミュニケーションズ)より

オー・ボン・クリマは堀賢一さんが著書の中で、マスター・オブ・ワインの受験生たちがブラインドで飲んでロマネコンティかもしれないと思ったワインがイザベルだったというエピソードを紹介していたのがきっかけで日本の人気が上がりました(細かいところは違っているかもしれません)。

おそらく、カレラも、オー・ボン・クリマもアルタ・マリアもロマネ・コンティになぞらえられることは期待も希望もしていないでしょう。カレラはカレラ、オー・ボン・クリマはオー・ボン・クリマ、アルタ・マリアもアルタ・マリアの良さがあると思います。

いろいろ与太を書きましたが、ともかくアルタ・マリアが非常にコスパが高く、いいピノ・ノワールであるのは事実です。今回の騒ぎでなかなか入手できなくなってしまうかもしれませんが。

なお、この記事、インポーターとのタイアップやステマの類ではないことを確認しております。