オーパス・ワンからBVまで、ボルドー経由での輸出はどういう意味を持つのか
ナパの老舗ワイナリー「ボーリュー・ヴィンヤード(Beaulieu Vineyard=BV)」がフラッグシップのカベルネ・ソーヴィニヨン「ジョルジュ・ド・ラトゥール(Georges de Latour)」プライベート・リザーブを、「ラ・プラス・ドゥ・ボルドー(La Place de Bordeaux)」経由での輸出に切り替えると発表しました。
近年高級ブランドを中心に「ラ・プラス・ドゥ・ボルドー」経由の輸出が相次いでいます。先駆けとなったのはオーパス・ワンで、ここ1、2年ほどでジョセフ・フェルプス(Joseph Phelps)のインシグニア(Insignia)とナパ・カベルネ、ハーラン・ファミリーのプロモントリー(Promontory)、イングルヌック(Inglenook)のルビコン(Rubicon)、ジャクソン・ファミリー傘下のヴェリテ(Vérité)とカーディナル(Cardinal)、先日記事で紹介したクインテッサ(Quintessa)などが続いています。
通常、カリフォルニアのワインが日本に輸入されるときには1社のインポーターが扱います。例えば上述の中ではハーラン・ファミリーの他のワインは中川ワインが輸入しています。ジョセフ・フェルプスはジェロボーム、イングルヌックはワイン・イン・スタイルがインポーターとなっています。オー・ボン・クリマなど複数のインポーターがあるワイナリーも少数ありますが、通常はそのインポーターが日本市場での販売や宣伝などを受け持つことになります。
しかし、「ラ・プラス・ドゥ・ボルドー」経由になると、どのインポーターでも輸入できることになります。間口は広がりますが、インポーターにとって国内での宣伝をするメリットはなくなりますから、ワイナリー自ら宣伝をする必要が出てきます。また、ワインは米国から1回ボルドーに輸出し、そこから全世界に輸出することになりますから、手間も時間もコストもかかります。
これだけだとあまりいいことがないようにも見えますが、ワイナリーにとってはどういうメリットがあるのでしょう。
先日、カリフォルニアワイン協会主催の「ホーク・ワカワカ」ことエレイン・チューカン・ブラウンのインタビューシリーズでボルドー在住のワイン・ライターであるジェーン・アンソンがこの疑問に答えていました。
「ラ・プラス・ドゥ・ボルドー」は一つの大きな組織ではなく、20~40の「ネゴシアン」と呼ばれる仲介業者の集まりです。ネゴシアンはそれぞれ、得意なマーケットを持っており、それはアジアなどの地域性であったり、レストランに強いところであったり、小売に強いところであったりと、様々なマーケットに深く入り込んでいます。ワイナリー単独ではリーチできないレベルの幅広さを持っています。その専門性を利用できるというのが、ワイナリーが「ラ・プラス・ドゥ・ボルドー」経由で輸出する理由になるのだそうです。
カリフォルニアの従来のアプローチは、比較的顧客に近く密接な関係を築きやすいという意味もありますが、ボルドーにはボルドーのシステムの意味があるわけです。
ただ、日本国内への輸出ということでは、そのメリットはあまり生かされないような気もします。結局インポーター経由で日本に入ってくるとなると、インポーターにとっては前述のように宣伝をするモチベーションも起こらず、価格だけの話になってしまう恐れがありそうです。また、オーパス・ワンなどごく一部を除けば、宣伝や説明なしで売るのはハードルもかなり高そうです。
また、アメリカワインに強いインポーターはボルドーとのコネクションが弱いという難点もあります。そのために、輸入したとしても割高になってしまうといった問題も起こります。
輸送コンディションについても懸念は生じます。カリフォルニアから日本に船便で送る場合、太平洋の北部を通りますから、比較的気温が低いところを通ってきます。夏場などは低温輸送のコンテナが必要になりますが、リスクはそれほど高くありません。しかし、欧州から日本に送る場合はスエズ運河を通るにしろ、南アフリカを超えるにしろ、インド洋やマラッカ海峡を通りますから暑いし距離も長くなります。もしコスト優先で低温輸送を使っていないインポーターが輸入したとしたら、劣化したワインが日本に入らないとも限りません(最近はさすがにそういうところは少ないと思いますが)。ネットで買う場合など、輸入業者が確認できないので、手抜いてコストを下げたもの勝ち、といったことにならなければいいですが…
数年後にまた揺り戻しが来るのでは、という気もしないでもないですが、これからも「ラ・プラス・ドゥ・ボルドー」経由のワインは増えそうな状況です。