米国のアルコール・タバコ税および貿易局(TTB)は2022年3月9日、新しいAVAとして「サン・ルイス・オビスポ・コースト(San Louis Obispo Coast、SLO Coast)」を認定しました。4月8日から有効になります。

SLOコーストは、既存のエドナ・ヴァレー(Edna Valley)とアロヨ・グランデ・ヴァレー(Arroyo Grande Valley)を含んでおり、サン・ルイス・オビスポ郡の沿岸地域全体をカバーしています。太平洋に近く非常に冷涼、また緯度が低いため太陽の日照時間は非常に長いといった特徴があり、シャルドネやピノ・ノワールの名産地です。
SLOコースト
この2つのAVA、以前セミナーで「不遇の冷涼産地」と紹介したことがあります。潜在的な力はすぐ南にあるサンタ・バーバラに負けず、特に海に近い冷涼さという点では、サンタ・バーバラ以上の面があるにも関わらず、カリフォルニアの中でも知る人ぞ知るといった位置づけになっていました。その理由の一つとして、エドナ・ヴァレーとアロヨ・グランデ・ヴァレーをまとめた呼び名がないというところがあったので、今回のSLOコーストAVA策定によって、メジャー産地になっていく可能性が上がったのではないかと思います。

ちょっとややこしいですが、その背景をさらに説明すると、実はサンタ・バーバラはカリフォルニアの「郡」の名前であって、AVAとしてサンタ・バーバラというのはありません。同様にソノマも郡の名前であってソノマ全域を束ねた形のAVAはありません(ナパはナパ・ヴァレーというAVAとナパ郡が一致した形になっていますが、これは例外的です)。モントレーも同様です。

ですから総称として郡の名前を使うというのは一般的であり、分かりやすくアピールもしやすいのです。ただ、エドナ・ヴァレーとアロヨ・グランデ・ヴァレーの場合は郡の名前がサン・ルイス・オビスポ(SLO)で、サン・ルイス・オビスポ郡の中にはパソ・ロブレスも含まれているのです。パソ・ロブレスはやや内陸に入っているため温暖で、カベルネ・ソーヴィニヨンやローヌ系品種などが主に造られており、エドナ・ヴァレーやアロヨ・グランデ・ヴァレーとは大きく性質がことなります。そのため、この2つのAVAの総称としてサン・ルイス・オビスポやSLOは使えなかったのです。

そこで、これまでも一部ではSLOの沿岸地域といった言い方はされていましたが、今回のAVA策定で大手を振って「SLOコースト」と呼べるようになりました。

これまではやや「2軍」的な位置づけになりがちで、他地域のワイナリーの低価格版をこの地域のブドウで造るといった形がやや多かった感がありますが、これからはメジャー産地の一つに成長してくれるのではないかと期待しています。