ナパのワイナリー「クインテッサ(Quintessa)」のワインメーカーであるレベッカ・ワインバーグさんが来日し、アンダーズ東京でのランチ・ミーティングに参加しました。


クインテッサのワインは2017年のヴィンテージから毎年ハーフボトルを送ってもらって試飲しています。今回は最新ヴィンテージの2021年だけでなく、2019年、2014年、2000年のワインも比べて飲む機会となりました。
<参考>過去のヴィンテージの記事
進化を遂げつつあるナパの隠れた自然派「クインテッサ」の魅力
クラシックスタイルのトップ級、さらに進化するクインテッサ
クインテッサ2019は傑作2018を超える!?
災難の年2020、クインテッサのできはどうだったか?

オープナーのワインは、クインテッサが同名のワイン以外に唯一作っているソーヴィニヨン・ブランの「イルミネーション(Illumination)」2023年です。9月に出荷を始める予定の最新ヴィンテージです。国内ではファインズが輸入する予定です。

イルミネーションは唯一自社畑以外のブドウを使っているワインでもあります。ソーヴィニヨン・ブランとセミヨンのブレンド。セミヨンはカリストガの古い畑で、自社畑はソーヴィニヨン・ブランのウェンテ・クローン1と呼ばれるカリフォルニアで一番主流のクローンに加え、香りの華やかさで知られるソーヴィニヨン・ムスケも植わっています。このほか、ソノマのベネット・ヴァレーにも自社耕作の畑をリースで借りています。ベネット・ヴァレーのソーヴィニヨン・ブランは畑は別ですが、ビーヴァン・セラーズも使っていて、個人的にはソーヴィニヨン・ブランの産地としてかなり期待しているところです。レベッカに、ベネット・ヴァレーの畑を使う理由を聞いたところ「ほどよく温暖でソーヴィニヨン・ブランには一番いいと思っている」とのこと。ナパのソーヴィニヨン・ブランは畑が足りない状態なので、今後ソノマのこのあたりのブドウを使うところはかなり増えるのではないかと思っています。

セミヨンを使っているのでボルドー系かロワール系かといえばボルドー系のスタイルになりますが、明るい酸味を持たせたいとしています。全房でプレスすることでピュアな果汁を出し、ニュートラルな樽(6割)に加え、コンクリートエッグ(2割)、ステンレスタンク(15%)、新樽、アカシアの樽と5種類の発酵容器を使っています。コンクリートエッグはミネラル感、ステンレスはピュアさ、アカシアの樽はフローラルなキャラクターを与えるのに役立つとのこと。5~6カ月、ときおりバトナージュしながら熟成させてボトル詰めします。MLFは行いません(PHが低いのでMLFが起こらないとのこと)。

イルミネーションの2023年はフレッシュさとリッチさが両立した味わい。グアバや明るい柑橘系を感じます。ボルドースタイルですがリッチさが前面に出ず、まずフレッシュな味わいが来て、あとから複雑さを感じます。ナパのソーヴィニヨン・ブランの中でもユニークなスタイルで非常に魅力的。個人的にも一番好きなソーヴィニヨン・ブランの一つです。

レベッカさんは今年がクインテッサで10年目のヴィンテージ。ナパで20年ほどのキャリアを持っています。クインテッサ以前はスタッグリン(Staglin)、ラッド(Rudd)、ブッチェラ(Buccella)と、そうそうたる経歴です。土地の個性をワインに表現できるところを探していてクインテッサに行きついたそうです。



クインテッサはナパのラザフォードに110ヘクタールに及ぶ地所を持っています。ナパでも最も美しい場所の一つといっていいでしょう。

中央の貯水池はこの地所の前のオーナーが作ったものだそうですが、前オーナーのときは畑として使われていたわけではなく、クインテッサになってから初めて耕作され、最初から有機栽培(1996年からはビオディナミ)されているので、一度も農薬が使われていない土地です。さらには以前から植わっている樹も1本も切り倒していないとのこと。当初から樹が生えていないところだけを畑にしています。ブドウ畑は60ヘクタールほどになります。

ブドウの樹も当初に植えたものが35年ほど経った今も60%程度残っています。近年は剪定の専門家として知られるマルコ・シモーネのアドバイスを受け、古い樹がまたいい実を付けるようになってきたそうです。カベルネ・ソーヴィニヨンはまだ20年くらいは持つのではないかとのことです。樹齢が高くなると、土地とのバランスが自然に取れてくるそうです。

クインテッサのワインは食事をしながらいただいています。また、話をしながらコメントを書いているので、あまり詳しいテイスティングコメントは書けていません。

最新の2021年は例年に比べるとやや赤果実系の味わいが少なく、黒果実系が強くなっています。カシスにミント、杉。リッチで芳醇、複雑性も高いのは例年通り。

この年は干ばつで雨が極端に少なく、気温も高めでした。その特徴が出ているワインです。レベッカさんはこのヴィンテージが個人的には一番好きだとのこと。レベッカさんの感じる畑の土や樹などの印象が表れているとのことで、ワインメーカーでないとわからない感覚かもしれません。

また、この年は初めて発酵にアンフォラの容器を3%ほど使っています。好気的な環境での発酵という意味では樽と共通しますが、樽のような風味を与えず、ワインにフレッシュな味わいを増やすことを期待しているとのことです。また、酸素の影響するパターンが樽とは少し違うそうで、このあたりはまだ作って試している段階です。

2019年はおととし試飲したときに非常に印象の良かったワイン。過去4ヴィンテージでは2018と2019が個人的にはベストでした。今回もその印象は変わらず素晴らしいワインでした。2021年と比べると赤果実の味わいがあり、酸もやや高いのが特徴です。セパージュの比率は特に変わっていないのですが、カベルネ・フランのような味わいがあります。

2014年はミントの風味や五香粉のようなオリエンタルなスパイスの風味がありとても複雑。熟成により腐葉土やマッシュルームのニュアンスもでてきています。ワイン全体としてはやや柔らかな印象。ナパのカベルネ系ワインは果実味が強すぎて熟成による魅力があまり出てこないケースもありますが、クインテッサは元々が果実味に頼った作りではないので、熟成感がきれいに出てきます。

最後のワインは2000年。これくらい古いものになるとレベッカさんもほとんど試飲する機会がないとのことで選んだそうです。腐葉土やマッシュルームが2014年よりもより顕著になります。果実味も少し残っていますが、だいぶ落ちています。レベッカさんは「ちょっとブレットもある」とのこと(私はあまり感じなかったですが)。2000年というヴィンテージ自体がやや弱めのワインが多いこともあり、近年のクインテッサに比べると、ちょっと質が低いかもしれません。

クインテッサ、以前はカベルネ・ソーヴィニヨンが5割くらいで残りはカベルネ・フランとメルローが半々くらいでした。2021年だとカベルネ・ソーヴィニヨンが91%、以下カベルネ・フラン4%、カルメネール3%、メルロー1%、プティヴェルド1%となっています。今後はカルメネールが増える可能性が高そうです。個性としてはメルローに近いものがありますが、メルローは暑い環境に弱く、カルメネールは強いというのが理由です。

アンダーズ東京の料理はどれも素晴らしかったのですが、特筆したいのがラム。ラムはワイルドさがクインテッサの複雑さやハーブのニュアンスと合うとのことで、ワイナリーから指名があった食材だったそう。普段はアンダーズではラムを出していないのを特別に調理いただきました。これが絶品で、骨までしゃぶりたいほどでした。