ここ数年、話題の絶えないフリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー(Freeman Vineyard & Winery)と、そのオーナーでワインメーカーのアキコ・フリーマンさんですが、ワインメーカーが交代することが発表されました。新しいワインメーカーは赤星映司ダニエルさん。アキコさんは、ディレクター・オブ・ワインメイキングとして携わっていきます。


近年のフリーマン関係の記事をまとめておきます。
「レイト・ディスゴージやロゼ・スパークリングも造ってます」――フリーマン・アキコさんに訊く
フリーマンのアキコさん、農業への功績で表彰 国外女性では初
フリーマン夫妻、ハリス副大統領と岸田首相の昼食会招待で「仰天」
アキコ・フリーマンさんにまたも名誉、女性の「優秀ワイン醸造賞」受賞
フリーマンの新作リースリングなどをアキコさんと味わう

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赤星さんはブラジルの生まれ、幼少期をチリで過ごし、ハワイ大学で生物学を学びました。日本には2年ほど住んだことがあり、会話は日本語で大丈夫ですが、読み書きは苦手とのことです。小さいころから周りのものを触って匂いを嗅いだり、味を確かめたりといったことが好きで、その経験がワインメーカーとして生きているそうです。幼少のころから家にはワインがあり、赤星さんもワインに親しんでいました。大学の卒業にあたって進路で悩んでいるときに、好きなワインと生物学を結びつけるものとしてワインメーカーになることを志し、改めてカリフォルニアでワインの勉強をしました。醸造を学んだカリフォルニア大学フレズノ校はアキコさんの師匠のエド・カーツマンの母校でもあり、エド・カーツマンの講義を赤星さんが受講したことがあると、以前聞いております。
ところで、カリフォルニアに来るときに、親戚でワインを造っていた人がいたらしいと聞き、調べてわかったのが長沢鼎との関係でした。長沢鼎は江戸時代末期に薩摩藩から英国に渡り、そこからニューヨーク、ソノマと渡り住んで「ブドウ王」とまで呼ばれた人です(カリフォルニアの「ブドウ王」長沢鼎のセミナーに参加しましたカリフォルニアの「ブドウ王」を産んだのは「あさが来た」の五代さんだったというびっくりぽんな話などを参照)。長沢が作ったワイナリー「ファウンテングローヴ(Fountaingrove)」は現在はAVAの名称として残っています。赤星さんは、親戚でワイン造りをするのは自分が最初かと思っていたら、大いなる先人がいたことがわかり驚いたそうです。赤星さんの曾祖父に当たる赤星鉄馬さんは、実際にファウンテングローヴを訪問しており、写真も残っています。
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ワインメーカーとしては、グリーン&レッドやロンバウアーなどナパのワイナリーで働くことが多く、ソノマとは縁遠かったのですが、本人はピノ・ノワールが好きで、十数年前に日系のワイン業界の集まりで飲んだフリーマンのピノ・ノワールが鳥肌が立つほどおいしく、記憶に残っていたそうです。そして共通の知人からフリーマンがワインメーカーを探していることを聞き、メールで応募しました。その後カフェテリアで1時間半ほど話をし、最後にアキコさんが「うん、いいんじゃない」と言いました。それが採用OKとの意味でした。
2023年、24年と2ヴィンテージ一緒に作った感想として、アキコさんと赤星さんのワインの方向性がとても似ていることが分かったそうです。また、フリーマンでは毎年、ピノ・ノワールのトップキュベである「アキコズキュベ」のブレンドを、初代ワインメーカーのエド・カーツマンさんなど数人で作り、一番人気だったものを選んでいます。過去20年間ずっとアキコさんが勝ち続けていたのですが、2024年はアキコさんが自分の作ったブレンドだと思ったのが赤星さんので、それが選ばれたそうです。これも、ワインメーカーとして今後をゆだねるにあたって大きな意味があったようです。
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このほかにも、アキコさんと赤星さんには縁があることがその後分かりました。写真の六本木にある国際文化会館。この敷地は岩崎弥太郎の家があったところですが、アキコさんの祖母が岩崎弥太郎の長女の姪なのです。そして、岩崎弥太郎にこの土地を売ったのが上記の赤星鉄馬だったのです。関東大震災で鉄馬の家が壊れてしまい、別のところに引っ越すときに弥太郎に譲ったという経緯でした。このことがわかって赤星さんがアキコさんにメッセージで伝えると「100年ぶりの再会ですね」と返事がきたということでした。

このように、様々な縁でつながった今回のワインメーカー就任。今後のフリーマンのワインにもさらに期待したいと思います。また、今回明らかになったのが、フリーマンに第3の畑ができるというニュース。アキコさんが東京に来ている間にケンさんから急に「買ったよ」という連絡が来たそうです。場所はおそらく下の地図でLittoraiのLの字のあたりではないかと思います。リトライの畑や幻ワイナリーの近くです。AVAでいうとロシアン・リバー・ヴァレーですが、現在セバストポール・ヒルズ(Sebastopol Hills)としてAVA申請している地域になります。まだブドウ畑でもなくリンゴ畑だったところであり、リンゴを引き抜くところから始めています。シャルドネやリースリングなど白品種の畑にしたいとのことです。おそらくここのワインがリリースされるのは4、5年後だと思いますが、ここが立ち上がるとエステートのブドウだけで95%くらいまかなえるようになるそうです。
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ワインメーカー就任の発表会の後はテイスティングです。今回は特に新しいワインがあるわけではありませんが、ハリス前副大統領とのランチで提供したワイン3種などもありました。

・2022 光風リースリング ソノマ・コースト
「酸フェチ」だというアキコさんらしい、ドライで酸がきりりとしたリースリング。リンゴのさわやかさに、ピーチの熟した果実の風味もあります。ちょっとオイリーなテクスチャーが高級感を醸し出します。最初に試飲したのがちょうど1年前ですが、そのときよりも酸の落ち着きが感じられました。畑はロス・コブのアビゲイル。

次は2024年米国副大統領ランチの3本です。
・ 2020 ユーキ・エステートブラン・ド・ブランソノマ・コースト
このワインも3年ほど前のリリース時にいただいています。その後も何度か試飲しています。当初はスリムで鮮烈な酸が印象的でしたが、こちらも酸が大分落ち着いて、果実のうまみが出てきています。花の香りや白桃、オレンジピール。今が一番飲みごろかもしれません(と書きつつ、自分が持っているのはもう1年くらい寝かそうと思っています)。ブランドブランはこれが最初で、今後は予定がないため、貴重なワインです。

・ 2022 涼風シャルドネグリーン・ヴァレー・オブ・ロシアン・リヴァー・ヴァレー
このワインも先月、シャルドネ・セミナーで飲んでいます。柑橘に花梨、ビスケットの風味が心地よい、酸も高すぎず美味しいシャルドネです。畑はチャールズ・ハインツとダットン。

・ 2021 アキコズ・キュヴェピノ・ノワールウエスト・ソノマ・コースト
いつもながらバランスの良さを感じるワイン。赤系果実の香り豊かで酸もきれい。エレガント系ピノとして秀逸です。

最後に自社畑のピノ・ノワール2つです。
・ 2019 グロリア・エステート「輝」ピノ・ノワールグリーン・ヴァレー・オブ・ロシアン・リヴァー・ヴァレー
カリフォルニアらしい豊かな果実味を持つピノ・ノワール。赤い果実に、シナモンなどのスパイスを感じます。ロシアン・リバー・ヴァレーらしいワインといってもいいでしょう。

・2019 ユーキ・エステートピノ・ノワールソノマ・コースト
ユーキ・ヴィンヤードはウエスト・ソノマ・コーストの畑。このヴィンテージはまだウエスト・ソノマ・コーストが認定される前だったのでソノマ・コースト表記になっています。冷涼さと、「セイボリー」と言われるようなキノコ系のうまみやハーブの風味が特徴です。カシスやザクロなど果実の熟度もあり酸が豊か。