オーシャンワインは横浜のインポーター。いわゆる「自然派」のワインに特化しています。「自然派」というとビオディナミ(バイオダイナミクス)に代表されるように、「初めに教義ありき」で身構えてしまう人もいるかもしれませんが、オーシャンワインで取り扱っているワインはむしろ「自然体」で飲めるものと言ったほうがいい感じです。

他のインポーターと大きく異なるのは併設しているレストランで消費するワインが中心になっていること。横浜駅近くの「家(うち)バルCru」という店で、気のおけないスタイル。ワインだけでなく日本酒や焼酎なども提供しており、近所のサラリーマンなどで賑わっています。

社長の早坂恵美さんは雑誌のライターから転身したという変わり種。笑顔が素敵な女性で、インタビュー中にもしばしばお客さんから声をかけられていました。

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――ワインの輸入を始めた経緯を教えてください
早坂:インポーターを始める前は、STORYという雑誌でライターをしていました。当時ロワールで自然派のワインを作っていた新井順子さんにインタビューをしてボワ・ルカのソーヴィニョン・ブランをいただき、体になじんで美味しいと思いました。

そのとき初めてワインていいな、と思いました。いろいろなお酒を飲んでいましたが、ワインに特化して興味を持つようになったのはそれからです。2008年のことでした。それから新井さんのワインの教室にも通うようになり、どんどんはまってワインの仕事をやってみようかと思いました。その教室では出資してくださる方にも出会いました。

ですから、最初はフランスのワインから入っていったのです。カリフォルニアワインは親しみやすいので、それを取り扱おうと考えました。2009年に会社を設立して、コネクションもなしにカリフォルニアに飛び立ちました。

――初めに行ったワイナリーはどこでしたか。
早坂:何のコネクションもルートもなく、とりあえずネットでワイナリーをツアーしてくれる方を探してオーガニックもしくは環境保全型農業の畑でぶどうを作っているワイナリーに連れて行ってもらいました。

その中で、あまりマニアックすぎず、日本と取引がないワイナリーを探しました。

あるナパのレストランでソムリエに「こういうワインを探している」と伝えたところ、そのソムリエがワインリストに載っていないCopain(コパン)のピノ・ノワールを飲ませてくれました。飲んでみたら探していた味わいだったので、契約することになりました。現在は弊社では扱わなくなっていますが、コパンが最初のワイナリーの1つでした。

その後、VinAsiaのSuzuki Yukoさんからの紹介でCru(クリュ)、Sosabe(ソサベ)、WendTaylor(ウェンドテイラー)などいろいろなワイナリーと契約するようになりました。そういうわけで、当初からラインナップはあまり変わっていません。

――ワイナリーを選ぶ基準は何ですか。
早坂:うちのワインはとんがったものはないんです。食べ物と一緒に飲むワイン、人と一緒に飲むワインです。フード・フレンドリーなワインを選んでいます。

結果として、ほとんど誰も知らないようなワイナリーが多くなっています。新規の取引先からうちを選んだ理由を聞いたところ「誰も知らないから」と言われたこともあります。さすがに笑ってしまいました。

――とんがったワインがないとおっしゃいましたが、サクサムも扱っていますね。
早坂:ここはたまたま扱うようになりました。ワイナリーというと牧歌的なイメージがあると思いますが、ここは荒野のようなワイルドなところにあります。さらに、ワイナリーには楽器があって、そこでライブを開いてしまうようなこともあります。こんなところで素晴らしいワインができるなんてと驚きました。

――自然派のワインにこだわる理由は何ですか。
早坂:カリフォルニアワインの知識がすごくあったわけではなく、いろいろ飲んでいった中で、体に馴染んで美味しいと感じたのが自然派のワインでした。

完全に無添加ということにこだわっているわけではなく、ワインメーカーが保存料をある程度必要だと思うのであれば、それは受け入れますし、ブドウにうどんこ病が流行ったら農薬を使うことがあるのも分かります。

逆に自然派のワインの中には、癖の強い香りがあるようなものもありますが、そういうのは苦手です。自然派だから好きなのではなく、好きなワインを選んでいったら自然派になったのです。

――レストランを併設しています。最初からその計画だったのですか。
早坂:最初の事業プランにはなかったのです。当初は個人レベルでこじんまりと通販しようと思っていました。ただ、同じ場所でレストランを一緒にやろうとしていた人が手を引いてしまい、仕方なく両方並行で進めることになりました。

大変でしたがレストラン5年めで、やっと安心して任せられるスタッフになりました。昨年まではフレンチ・レストランだったのですが、回転が悪く、仕込みに時間がかかり、原価率が高すぎたため、気軽に使えるレストランに切り替えました。

現在は、このレストランでいい状態のワインを出すことがビジネスモデルの中心になっています。自分の子供に飲ませたいワインということを基準に選んでいます。

うちのワインを買ってくれる顧客にはホテルなどが多いのですが、「不機嫌にならない」ワインだということで選んでもらっています。

レストランやホテルでワインを提供することを考えると、抜栓したときに硬いワインは扱いにくいんです。うちのワインはお店にとってもお客さんにとっても楽なワインなのです。

――お薦めのワインを教えて下さい。
早坂:うちで扱っているものは5000円~7000円くらいのものが多いのですが、その中で低価格帯で健闘しているのがソサベのジンファンデルです。カリフォルニアのジンファンデルというと、濃厚な味わいのものが多いですが、これはとても優しく、Frog's Leapのジンファンデルなどによく似た味わいでした。オーナーの人柄もよく、「このジンファンデルなら食事に合う」と思って扱うようになったものです。

クリュのピノ・ノワールとシャルドネは、カリフォルニアワインとしてはエレガントでバランスが良く、気に入っています。

ダンシング・コヨーテはすごく面白いワインで、十数種類の珍しいブドウを使ったワインを作っています。初めは面白がっていろいろ入荷していたのですが、今はプチ・シラーとアルバリーニョ、ヴェルデホというスペインでよく作られている品種など、いくつかに絞っています。うちの子供が最初に美味しいといったのが、ここのワインでした。

幻ワインの私市さんの奥様であるレベッカさんが作るスパークリング・ワインも扱っています。私市さんに「うちはスパークリングがなくて」という話をしたらこれを扱わせてもらえるようになりました。

――これからどういうワインを扱いたいですか。
早坂:ワインのしきいを下げたいんです。うちで扱っているワインで3000円くらいのものは、うちのレストランならその値段で出せますが、ほかのレストランだとどうしても4000円、5000円といった価格帯になってしまいます。もっと気軽に飲めるワインを増やしたいと思っています。

ワインがもっと食卓に登場して、肉じゃがとワイン、缶ビールじゃなくてワイン、みたいになるといいですね。

――ほかに目標はありますか。
早坂:扱っているワイナリーの方を招いてワインメーカーズ・ディナーを開きたいと考えています。

また、うちのスタッフをカリフォルニアに連れて行って、どういうところでどのようにワインが作られているか見せたいです。彼らが一番直接お客さんに接するので、そのときに、もっとうちのワインの良さを伝えられて、それでお客さんにファンになってほしいのです。

――ワインの商売をやられていて、一番嬉しかったことは何ですか。
早坂:やっぱり、これまでワインは苦手と言っていた人が、うちのワインを飲んでワインに興味を持つようになったときですね。このワインはジンファンデルと言うんだよとか、これはカリフォルニアで作られているんですよとか、1つひとつ興味を増やしていってもらえると嬉しいです。

関連サイト:
オーシャンワインのサイト
家バル・クリュのページ

インタビューを終えて:
インタビュー中、「うちはこだわりないから記事にならないんじゃない」と語る早坂社長。いえいえ、十分こだわりがありますよ。気軽に美味しくワインを飲んでほしいという気持ち、強く伝わりました。


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