前回のインポーター・インタビュー「好きなワインを選んでいったら自然派に行き着きました――オーシャンワイン 早坂恵美社長」の後、早坂さんから紹介されたのは、カリフォルニアワイン・ファンの桑田士誉(あきたか)さんでした。1980年代から様々なカリフォルニアワインを飲んでこられた桑田さんは、ホテルやレストランのビジネスで豊富な経験を持つ方。イタリアン・レストランでカリフォルニアワインを売りまくったり、幻ワインの私市さん(Maboroshi Vineyard & Wine Estates: 日本人ワインメーカーが作る「幻の」ワイン)のワインメーカー・ディナーを開いたりと、本業でもカリフォルニアワインに深く接してきました。

2014年からはネオ・エモーションという会社の社長として、神奈川や沖縄を中心に回転すしチェーンを切り盛りされています。

桑田さんに、カリフォルニアワインにまつわる思い出などを語っていただきました。
桑田士誉(あきたか)さん

――桑田さんのワイン歴を教えてください
桑田:1985年にホテルニューオータニに就職をし、1989年にメインダイニングのトゥールダルジャンで働いていました。そのときに米国のホテルでの研修があり、サンフランシスコのノブヒルにあるスタンフォード・コートに1ヶ月半滞在しました。

当時、スタンフォード・コートのフォルノーズオーブン(Fournou’s Ovens)というレストランに、ピーター・グラノフというマスターソムリエがいました。彼は、後に最初のインターネット・ワインショップであるVirtual Vineyardsを立ち上げます。

この人にワインを教えてもらって、飲むようになりました。今でも覚えているのが、最初にコストプラスというスーパーで買ったワインで1987年のモントレーのLoganというシャルドネでした。値段は9ドル66セント。ラベル剥がしを持っていなかったので、自分でペンでラベルに書かれていることを写しとっていました。
Logan
そのレストランでは常時10数種類のカリフォルニアワインをグラスで出していました。仕事が終わったあとに、それらを試飲させてもらい、アイアン・ホースやときにはBVのプライベート・リザーブを経験しました。また、ナパに一緒に行き、当時モンダヴィ傘下に入ったばかりのヴィションのハーベスト・セレモニーでワインメーカーのマイケル・ワイズ(現在はGrothのワインメーカー)やティム・モンダヴィ(現在はContinuumのオーナー・ワインメーカー)に紹介してもらって、一緒に写真を撮ってもらいました。10年くらいたって、その写真を見て、こんなすごい人と写真を撮ってもらったのかとあらためて思いました。

ピーター・グラノフには、ブドウの味を教えてもらったり、土地について教えてもらうなど、いろいろ勉強をさせてもらいました。

日本に帰った後、2年間はイタリアンのレストランで、イタリアワインに没頭しました。その後、辻調理師専門学校に転職しました。ここではヒュー・ジョンソンのポケット・ワインブックの翻訳を出していました。私はホテル学校の職員だったのですが、米国に学校を作るというので、志願してワシントン州に行きました。1992年1月のことです。

それから2年間の滞在中は飲みまくりの日々でした。近所のスーパーやコストコなどはもちろん、サンフランシスコやロスアンゼルスのショップなどでもワインを物色して歩いていました。ポケット・ワインブックの翻訳をしているチームから質問を受けると、そのワイナリーについて調べて答えていました。ピーター・グラノフさんのところにも、ときどき遊びに行きました。

ピーターに教わって、モンダヴィが作り始めたスパークリングワインを買ったり、ロバート・シンスキーのピノ・ノワールを飲んだりしました。

ヴィンテージのワインを飲んでみようと思ったのもそのころです。ナパのオーベルジュ・デュ・ソレイユで1976年のジョセフ・フェルプス・インシグニアを飲みました。オリがすごいワインでした(笑)。それをきっかけにジョセフ・フェルプスのワインをオタク的に飲んでいました。

ピーターから「どうせカリフォルニアワインを勉強するなら、もっと珍しいものも飲んでみたらいいよ」と言われてレイト・ハーベストのワインもいろいろ飲みました。

カフマン恵美子さんを紹介してもらったのもそのころです。彼女の書いた「カリフォルニアワイン・パスポート」は、バイブルのように、読み漁り、丸暗記しては飲み、丸暗記しては飲みを繰り返していました。

2004年からは東京の高田馬場でイタリアンとフレンチのレストランをやっていたのですが、カリフォルニアワインを仕入れまくっていました。インポーターのワイン・リストに知っているワイナリーの名前を見つけると、うれしくてうれしくて、どんどん入れていました。

――イタリアンやフレンチの店でカリフォルニアワインを売るのは難しくないですか?
桑田:そこはやっぱりウェイターの力なんです。イタリアのワインも置いていますが、「何かお薦めは」と聞かれたときに、イタリアワインのこれが好きなら、カリフォルニアのこれはどうだろうなどと想像して薦めます。

また、初めての場合はスタッグス・リープ・ワイナリーのワインをよく薦めていました。オーナーのカルロス・ドマーニについて「イタリアの大ボスみたいな人がカリフォルニアワインを作っていまして、この人のプチ・シラーが美味しいんですよ」などと言って飲んでもらっていました。ドマーニの娘さんが、ナパの有名なレストラン「テラ」の曽根さんの奥さんなので、その話題を出しつつ、さらにいろいろなワインを薦めていました。

ソノマでワインを作っている私市さんの「マボロシ」も、インポーターのデプト・プランニングさんから仕入れて、かなり売りました。それをきっかけで私市さんなどワインメーカーを呼んだワイン・イベントもいろいろやりました。

その後、ヒルトン東京の責任者になりました。中国料理のレストランが有名なのですが、そこで私市さんのワインを出しました。料理にワインを合わせるのではなく、ワインに合わせて料理を考えて出すといったことをしていました。

――一番思い出に残っているワインは何ですか?
桑田:やっぱり最初に自分のお金で買って飲んだLoganのシャルドネですね。開けて飲んだときに、味がよくわからなかったんですよ。今思えばあんな味だったんだろうなと思うのですが、当時は樽の香りも強いしスパイシーだというくらいしか感じなかったのですが。

それ以外にワインではないですが、初めて収穫したシャルドネの実を食べたときの甘さや、赤ワインの実を食べた時の渋みなどは鮮烈に覚えています。

日本人が一生懸命作ったワインを飲むのも嬉しいです。私市さんの2005年のピノ・ノワールは衝撃的な出会いでした。それから、ソノマでワインを作っている中井さんは高校の先輩なんです。

――好きなブドウの品種は何ですか。レイト・ハーベストがお好きなようですが。
桑田:レイト・ハーベストは冷蔵庫でキンキンに冷やして飲んだりといった、一人のときに飲むのが好きです。

品種ではヴィオニエがいいです。独特の感じが好きなんです。特にワイナリーにはこだわらないのですが。ヴィオニエを見かけるとついつい買ってしまいます(笑)。
一時期はピノ・ノワールにはまっていました。特にトニー・ソーターが作っていたエチュードのワインは好きでした。エチュードではピノ・ブランもよく飲みました・オレゴンのボー・フレールやドゥルーアンなども好きでした。

――今のお店ではワインは出していませんか。
桑田:今は出していません。もし出すとしたら国産ワインがいいかなあと思っています。

――思い出深いワイナリーはどこですか?
桑田:タリー・ヴィンヤーズに行ったときのことはよく覚えています。畑を案内してもらったあと、ワイナリーに行くと、違うラベルを貼った樽がいくつもありました。オー・ボン・クリマとかフィドルヘッドとか。その後、ロスアンゼルスのワインショップでそれらのワインが実際に店頭に並んでいるのを見て、ここで取れたブドウがこうなるのか、と思いました。

このほか、ナパに行ったときに、一人で畑にちょっと入ったら、顔の長いおじいさんに「そこは入っちゃだめだよ」と叱られたことがあります。後から考えたら、あれはロバート・モンダヴィさんだったなあ、というのを覚えています。

関連サイト:
和ダイニング/回転寿司のネオ・エモーション|三浦三崎港直送のマグロ・鮮魚をお楽しみください

インタビューを終えて:
カリフォルニアワイン・ファンの方とお酒を酌み交わすことはもちろんよくありますが、このように思い出を深く語っていただくことは意外とないものです。非常に楽しく、貴重な経験をさせていただきました。思い出に残るワインは、パーカーが高得点を付けたワイン…などではなく、やはり「体験」なのだな、ということを改めて思いました。
私がこのサイトを続けている最大の理由は、カリフォルニアワインのファンを増やしたいということなのですが、このような「体験」をもっと多くの人に持ってもらうにはどうしたらいいだろうかと、自問しています。

過去のインタビュー記事
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神様が背中を押してくれているような気がしました――ilovecalwine 海老原卓也社長
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