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Date: 2023/0430 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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今回の記事はナパヴァレー・ベスト・ソムリエ・アンバサダーの山田琢馬君に書いてもらいました。琢馬君、ありがとう!


午後からはフリーマークアビーにて"ナパ・ヴァレーワインの歴史と未来"というテーマのパネルディスカッションへ。ホストでもあるフリーマーク・アビー(Freemark Abbey)を長年ワインメーカーとして支えてきたテッド・エドワーズ(Ted Edwards)。


ナパ・ヴァレーにおける女性醸造家の先駆け的な存在キャシー・コリソン(Cathy Corison)。


マスター・ソムリエでハイツセラーズ(Heitz Cellar)などの複数のワイナリーを手掛けるカールトン・マコイ(Carlton McCoy)。


そして1895年創業の老舗ワイナリー、ラークミード(Larkmead)のエイブリー・ヒーラン(Avery Heelan)。


モデレーターは重さ10kgを超える大著"Napa Valley, Then & Now"の著者で、ナパ・ヴァレー屈指のエデュケーター、ケリ・ホワイト(Kelli White)を迎えて進行するという、超豪華なメンバーにひたすら目を輝かせていました(笑)


冒頭の30分はケリ・ホワイトによる、ナパにおけるカベルネの歴史とスタイルの変遷の話でした。ナパにおいてカベルネにスポットが当たり始めたのは禁酒法が終わってしばらくしての事で、それ以前はジンファンデルやリースングで造られるワインが人気だったようです。また禁酒法の最中、ワイン製造自体は禁止されていなかったため、自宅でワイン製造する人が急増し、ブドウ栽培農家への需要が集中したという面白い現象についても語っていました。

1961年のハイツ・セラーズ(Heitz Cellar)や1966年のロバート・モンダヴィワイナリー(Robert Mondavi Winery)などの創業を皮切りにナパにおけるカベルネの黄金期に入ったとの事で、当時は強いタンニンながら早摘みによって酸を残し、アルコール度数が抑えられたスタイルが一般的だったようです。

パリスの審判(Judgement of Paris)でのナパワインへの注目や、名だたる評価メディアの誕生(Wine SpectatorやWine Advocateなど)によって大きく躍進した1970年代、より食事に寄うために酸の残ったエレガントなワイン造りが主流となった1980年代、密植の流行・評価メディアで評価されやすいワイン造りが主流になり、97年に経験した長いハングタイムによって濃厚でリッチなスタイルが確立された1990年代、現在のクラシックへの回帰など、カベルネ一つとってもかなり激動の時代を歩んできた事が分かりやすく語られました。

ケリの話の中で特に印象的だった事は、流行りに乗るためにクラシックに回帰したというよりは、干ばつや熱波、山火事などの気候変動に対応するための自然かつ最善の方法がクラシックへの回帰だったという事です。

さて、テイスティングでは4種類のカベルネベースのワインをテイスティングしました。


まずはFreemark Abbey Bosche Vineyard 2002。
カベルネをベースとしたブレンド。マグナムボトルで供されました。黒系フルーツの香りに黒鉛、レザーや腐葉土のような熟成のトーンが相まって非常に複雑な香りですが、未だに若々しさすら感じます。綺麗な酸と丸みのあるタンニンによって非常しなやかな質感となっていました。

続いてCorison Cabernet Sauvignon2011。ここ30年で最も難しいビンテージだったという2011年。雨が多く冷涼な年だったという事で、果実の乗り方こそ穏やかでしたが、未熟なニュアンスは一切なく、瑞々しい酸と穏やかなタンニンを纏ったエレガントなテイストでした。

3杯目はLarkmead Solari Vineyard 2013。日本未輸入、長い歴史を持つカリストガのワイナリーの単一畑です。2013年は干ばつが始まった年との事で、香りと味わいともに凝縮感とボリュームを感じさせる印象でした。しかし全体を支える酸も豊富に感じる事が出来たため、重々しさはほとんど感じませんでした。

ラストはカールトン・マコイが持つブランドの一つ、バージェス(Burgess)のハウエル・マウンテン(Howell Mountain)にある標高300mの単一畑Sorenson Vineyard 2021を。赤黒いフレッシュなフルーツの香りに黒鉛やハーバルなトーン、生き生きした酸と口中を掴むようなグリップを感じるタンニンによって引き締まった印象を受ける、まさに"山カベ"といった洗練されたテイストでした。

全てのワインに精通して感じた事は、重々しい雰囲気はなく、そのどれもに一定の"清涼感"と"瑞々しさ"を持っているという事でした。

これこそまさにナパ・ヴァレーのクラシックな味わいである事を再確認できた素晴らしい機会となりました。

=====琢馬君の記事はここまで====
さすがソムリエ。ワインの表現は素晴らしいですね。琢馬君はナパの2次試験のペアリングコンテストでも1
位になっており、僕にないものをいろいろ持っています。また機会があったら書いてもらおうと虎視眈々、狙っています(笑)。

なお、この後は趣向を変えて、日本のナパワイン事情について、レストランやホテル、小売店などの立場から説明するという逆向きのセッションもありました。私も少しお話させていただきました。

Date: 2023/0426 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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長かったこの日の最後のプログラム(前回の記事との間にもう二つプログラムがありましたが、後日報告します)は「生産者と受賞レストランディナー」。様々な賞を受賞したレストランに、生産者と行くプログラムです。これも小グループに分かれます。

私のグループはロング・メドウ・ランチ(Long Meadow Ranch)。ランチと名の付く通り、ブドウ畑だけでなく、牧場や果樹、菜園などを兼ね備えたワイナリーです。そしてディナーを取るレストランは「Farmstead」というロング・メドウ・ランチが持っているところ。ミシュラン星付きではないですが、ミシュランのサイトにも掲載されているレストランです。レストランの周りにも菜園があり、そこで取れた野菜などを出しているという地産地消のレストランです。

まずはロング・メドウ・ランチの見学です。ここはラザフォードのヴァレーフロアに畑を持っているほか、マヤカマスの山中にワイナリーや畑があり、メンドシーノのアレキサンダー・ヴァレーにも畑を持っています。


Long Meadow Ranchのワイナリー、案内してくれたのは販売担当のVP、Brad Groperさん

Highway 29からホワイトホール・レーン(Whitehall Lane)という道(この道の入口の近くにホワイトホール・レーン・ワイナリーがあります)を入って山道を上がっていきます。車がすれ違えないような細い道をどんどん上がっていくとロング・メドウ・ランチです。眼下にはセント・ヘレナからラザフォードあたりの景色が広がります。


道に置いてあるのは、かつて大砲として使っていたという金属の筒。それを霜対策のヒーター用に再利用しています。

ワイナリーの建物は漆喰のような壁があります。ここは山をくり抜いたケーブになっているのですが、ケーブを掘ったときに出た土に少量のセメントを混ぜて壁にしています。保温性など高いそうですが、洗うことはできないそうで、出来てから数十年一度も洗っていないとのことでした。

ワイナリー部分はケーブではなく入って左側の建物になります。屋根が高く、温かい空気が下にたまらないようになっています。また、外光を取り入れる工夫があり、照明を使うことはあまりないとのこと。このように一つ一つが省エネを考えて作られています。


珍しいのはワイナリーの中にオリーブオイルを作る設備もあること。敷地内にオリーブの木があることから、オリーブ・オイルを作る設備も導入したのだそう。


一通りワイナリーを見学したらいよいよFarmsteadのレストランです。ここでもまず菜園などレストランの周りを一周してみました。



レストランでは前菜などをいろいろ取って最後にメインを食べる形。


写真残っていないものもいろいろありますが、特筆したいのがアスパラガス。今回シーズンでもありアスパラガスは何度も食べましたが、ここのアスパラガスが一番でした。美味しい。

アーティチョークを久しぶりに食べられたのも嬉しかったです。

メインはポークチョップを頼みましたが、400gくらいありそうなボリュームにびっくりしました。味も良かったです。

デザートにはベニエを頼みました。これはニューオーリンズで食べられている揚げドーナツのようなもの。以前フードトラックの映画で見て美味しそうと思っていたのでした。

ワインはナパのものだけでなくアンダーソン・ヴァレーのブドウを使ったものも含めてロング・メドウ・ランチのワインをいただきました。ピノ・ノワールのロゼはフレッシュでなかなか美味しかったです。ピノ・ノワールの赤などアンダーソン・ヴァレーのワインはよかったです。





もちろんナパのワインも良かった。ロング・メドウ・ランチのワインは単体で飲んで美味しいというよりも食事に寄り添うワイン。特にここのレストランの料理とはさすがに相性が良かったです。

もりだくさんなプログラムですが、気がついたら残り1日、ちょっと寂しいような気もしてきました。
Date: 2023/0425 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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四日目(ナパでは三日目)の午前は、小グループに分かれて畑の作業を学びました。グループによって少しずつ内容が違っていたようですが、私はティエラ・ロハ(Tierra Roja、スペイン語で赤土という意味)というワイナリーのグループでした。

ティエラ・ロハはリンダ・ニール(Linda Neal)の小さなワイナリー。オークヴィルの東のヒルサイド、ジョセフ・フェルプスのバッカス・ヴィンヤードのすぐそばに畑を持っています。丘を上った先はダラ・ヴァレ、Silverado Trailを渡って100メートルほど行けばボンドのセント・エデン、スクリーミング・イーグルも数百メートル先に見えるという超一等地です。


リンダはブドウ畑を管理する会社を20年もやってきた業界の大ベテラン。会社をやめて今は自身のワイナリーでの栽培に専念しています。ワイナリーでは醸造は委託。2019年まではトアー(Tor)のワインメーカーでもあるジェフ・エイムス(Jeff Ames)、2021年からはレアム(Realm)やティーター・トッター(Teeter-Totter)のブノワ・トケ(Benoit Toque)という素晴らしいワインメーカーに依頼しています。Tierra Rojaのワインはフレンチ・ランドリーにもリストされています。

今回は、彼女から剪定などを教わるのがメインです。彼女自身の畑ではなく他の畑で作業します。

最初に向かったのはカーネロスの畑。そこで「芽かき」の作業をします。

ヴィンヤード・ワーカーに最初に必要なのは「帽子」だとのことでティエラ・ロハのキャップをいただきました。帽子が似合わないことには自信があるのですが、かぶって作業しました。

今回の畑は、いわゆる短梢剪定、コルドンのタイプの剪定をしている畑です。樹の幹が地面から1メートルくらいの高さまで伸び、そこから左右に分かれていきます。

今回の畑の作業で一番の基本となるのは「ブドウの実を付けるのは、その年に新しく伸びた枝(シュート)だけである」ということと、「枝が出てくるのは、昨年1年めの枝だった梢からだけである」ということです。昨年の枝を長く残して、そこからシュートを出すのが「長梢剪定(ケイン・プルーニング)」です。



今回の短梢剪定((スパー・プルーニング)では、コルドンのところどころに短いスパーが残されている形になります。このスパーから芽が出てくるわけですが、基本的には一つのスパー当たり2つの芽を残して後は取ってしまいます。これが芽かきです。また、芽は幹から直接出てくることもありますが、こういった芽が伸びて枝になってもあまり実を付けないのでそういった芽も取ってしまいます。

と、これだけ書けば簡単そうですが、実際にはスパーから出ているのか幹から出ているのか、ちょうど間で判別が難しいことも多々あります。また1カ所から2つの芽が出ているときもあり、そういったときはどちらを残すか判断しないといけません。ブドウの房になるところがもう出ている方の芽を残したり、まっすぐ上に出ている芽を残したりといったことが基準になるそうですが、リンダさんは最終的には自分の好き嫌いで決めているようで、素人の我々には「どっちを選んだらいいの?」というのがかなり悩ましかったです。わずか数十分の作業でしたが、とても楽しく作業しました。


その次は、ラザフォードにあるリンダさんの知り合いが趣味で持っている小さな畑に行って剪定作業を学びました。本当はもう剪定は終わっていないといけない時期ですが、本業が忙しくてほったらかしになっていたそうです。我々にとってはラッキーなことでした。



この畑も短梢剪定(こちらの方が比較的易しいようです)を使っています。剪定作業は昨年実を付けた枝をカットして、今年の芽が出る場所を決めてあげることになります。枝の中で節のようになっているところから芽が出るので、1本に付き2カ所それを残した形でカットしていきます。また、1カ所から2つ枝が出ているところもあるので、そういったところは片方を根元からカットします。


それから垣に沿ってワイヤーが這っていますが、幹がない部分もあります。そういったところには幹を伸ばしていく必要があります。具体的には、昨年の枝を将来の幹にするために育てていくのですが、そのためには幹に育てる枝を選んで、それだけは短くカットしないといった判断も必要になります。

ここは同じ短梢剪定といっても、1本の樹についてコルドンが4つずつある形です。片側だけの作業では終わらないのがちょっと面倒(な気がする)、

今回はハサミを持った作業なので怪我をしない・させないように注意も必要です。エプロンも付けて鞘に入ったハサミをポケットに入れます。砥石ももらい、最初はハサミを研ぐところからです。

研いでいても、枝をカットするのはかなり力が要ります。片手では難しいこともしばしばありました。特に根元からカットするときは幹の部分まで切り取ることになるのでさらに力が必要です。リンダさんもぐりぐりハサミを回しながら切っていたので、それを真似て作業しました。

根元からカットするのはかなり力が必要です。男性でも両手を使わないと難しいですが、リンダさんは片手で切っていきます。

最初はジャングルのようだった畑が剪定をしていくうちにきれいになっていくのはかなり気持ちいいです。すっきりしてくると、カットした枝を引き抜くのも楽になります。短い時間で全部できなかったのがみんな残念だったようで、時間を伸ばせないか聞いてみましたが、それは無理でした。

剪定してすっきりするとかなり気持ちがいいです

あと、もう一つ細かい作業をしました。先程、幹に育てる枝を残すと書きましたが、この枝がちゃんとワイヤーに沿って横に伸びるようにテープでくくりつけるという作業です。これもなかなか楽しい。

こうしてあっという間に畑の作業は終わってしまいました。予想以上に楽しく、またやりたいと思ったのは私だけではなかったと思います。


メキシカンスーパー

その後はメキシカンのスーパーに行ってランチをピックアップし、ティエラ・ロハ(つまりはリンダの自宅)にいきます。グループによってはちゃんとしたメキシカンのレストランでテイクアウトしたところもあったようですが、私のグループはメキシコ人の労働者が実際に毎日のように食べている食事です。食事に合わせるのもビール。この日はまだワイン飲んでいません(笑)。

ランチはかなりのボリュームです

食べたのはまずブリトー。何はなくともこれがあれば食事になるオールインワンの食べ物です。日本人にとってのおにぎりのような感じでしょうね。ただしかなりでかい。多分一つでコンビニおにぎり3つか4つ分くらいの分量があると思います。
それから「タマーレ」。これはトウモロコシの粉を蒸して、ひき肉と混ぜて皮に包んでさらに蒸したようなもの。日本でいうとちまきみたいな感じです。大きさはこれもちまき2つ分(笑)。
それからカサディーヤ。薄いトルティーヤにチーズを挟んだようなものですが、日本で食べるのの倍くらいの厚みがあります。
そしてタコス。これだけは普通サイズ(笑)。
最後に、豚の皮を揚げたもの。皮までちゃんと食べるというのはサスティナブルです。見るからに高カロリー。日本人にとっての鶏の唐揚げみたいな感じなのでしょう。カリカリでビールが進みます。残さず食べたらかなりお腹いっぱい。さすがにちょっと食べすぎました。

ランチの後は少しだけ時間があったので、ティエラ・ロハの畑を見学します。ここも短梢剪定でしたが、病気になった樹を植え替えたところがあったり、上を切って接ぎ木をしたところがあったりと、やはり実地で見るのは面白いです。

上を切って接ぎ木した木

ここの畑は前述のようにオークヴィルの東側のヒルサイド。プリチャード・ヒルから降りてきたところで、プリチャード・ヒルと同じ、鉄分が多く、石だらけの赤い土があります。これも頭では知っていましたが、実際に見るとまさしくそのとおりで納得しました。

そして残り時間10分くらいでようやくティエラ・ロハのワインの試飲です。ヴィンテージは2019。ジェフ・エイムスの作ったもの。これがワイナリーでの最後の在庫(生産量は多くて250ケースというごく少量のワイナリーです)。


果実味しっかりあって、濃厚なワインですが、重くない。今回たくさんカベルネ・ソーヴィニヨンを試飲して感じましたが、やはり素晴らしいワインは重くない。おそらく酸などとのバランスやさまざまな複雑な風味によるものなのでしょう。それは多くのワインに共通していたと思います。

このワイン、買いたかったなあと思ったのに在庫がなくて残念だったのですが、最後の最後にサプライズ。バックヴィンテージのワインを一人1本プレゼントいただいたのです。これには感激しました。

そして時間がないところでもう一つ、倉庫にいってルートストック(台木)を見せてくれました。これはセント・ジョージという台木で、ここの斜面にはこの台木が必要なのだそうです。樹勢が強く、根をしっかり張るので、ここの斜面でも根付くとのこと。ほかの台木だと根付くことが難しいのだそう。逆に肥沃な土地ではセント・ジョージは樹勢が強すぎてあまり良くないと言っていました。そして、これは苗木屋で売っている時点ですでにカベルネ・ソーヴィニヨンが接ぎ木した状態になっています。このまま植えればいいとのこと。


リンダはカーナビ付けながらもしょっちゅう道を間違えるし、ハラハラしながらもとってもチャーミングで面白く、また畑の管理のことについてはとても真面目なのがよくわかって(車の中では、ヴィンヤードワーカーの管理や確保などいろいろな話を聞きましたが、ここでは省略します)とても素敵な人でした。ちなみに寒いのが苦手なので、カーネロスには午前中の早い時間しか行かないそうです(10時くらいをすぎると風がだんだん出てきて寒くなるそうです)。そういったお茶目なところも魅力的でした。

Date: 2023/0423 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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カリストガの山麓を後にし、ヴァレーに戻ってカリストガのフィッシャー(Fisher)でディナーです。この日のディナーのテーマは家族経営の小規模生産者による珠玉のワイン。

実はナパの生産者の92%は家族経営で、生産量も1万ケースに満たないところが大半です。実際この日に回ったワイナリーも前日に回ったワイナリーもすべて家族経営のところでした。生産量も1万ケースに達していないところが多いと思います。

今回はフィッシャーのほかにクロスビー・ローマン(Crosby Roamann)、マッケンジー-ミューラー(McKenzie-Mueller)、スタッグリン・ファミリー(Staglin Family)、スチュワート・セラーズ(Stewart Cellars)の4つのワイナリーがディナーに参加していました。この中でクロスビー・ローマンはSWIRL、マッケンジー-ミューラーはヴィレッジ・セラーズが、スタッグリン・ファミリーは中川ワインが、スチュワート・セラーズはセンチュリートレーディングカンパニーが日本に輸入しています。



会場となったフィシャーは1973年に設立されたワイナリーです。当初はマヤカマス山脈のソノマ側にありました。おそらくいちばん有名なのはナパではなくソノマにある「ウェディング・ヴィンヤード」の畑で作るカベルネ・ソーヴィニヨン。1975年からナパでもワインを作り始め、今回のワイナリーは2019年に作られた新しい建物です。ナパのワインではフラッグシップのコーチ・インシグニア(Coach Insignia、ジョセフ・フェルプスのインシグニアとは別のワインなので注意)というカベルネが有名です。今回はLamb Vineyardという単一畑のワインが供されました。
ヴィンテージは206年。予想以上に酸のしっかりしたカベルネ・ソーヴィニヨンでした。

マッケンジー-ミューラーはボブ・ミューラーが妻のカレン・マッケンジーと1989年にカーネロスで作ったワイナリー。カーネロスとオークノールに畑があります。今回はカベルネ・フラン 2018でした。生産量全体で2000ケースという小さなワイナリーでカベルネ・フランは250ケースほどです。オークノールの畑は1970年代の樹もまだ残っているとのこと。このワインは80%カベルネ・フランでマルベック、メルローもブレンドされています。
飲んだ感想としては、ハーブやレッド・チェリー、ザクロなどの赤果実などカベルネ・フランらしい風味が前面に出ています。カカオやタバコの風味もあります。カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランの違いを典型的に表現しているいいワインだと思います。

クロスビー・ローマンからは2018年のメルロー。80%メルローで15%がカベルネ・ソーヴィニヨン、残りがカベルネ・フランです。樽発酵樽熟成しており、発酵には20日間と比較的ながくかけています。生産量600ケースのワイン。
飲んだ感想としては赤と黒の果実の風味。メルローとしてはかなりタンニンを強く感じ、ストラクチャーもしっかりしています。

スタッグリン・ファミリーはラザフォードのマヤカマス側のベンチ(山麓)にあるワイナリー。ボーリュー・ヴィンヤード(BV)が持っていた畑を自社畑として使っています。この畑からはフィネスのあるワインが作られるとのことです。ワインはカベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネ、および「Salus」というセカンドのカベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネの4つをメインに作っています。
今回のワインはカベルネ・ソーヴィニヨン 2014。ラザフォードの素晴らしいカベルネ・ソーヴィニヨンの典型のようなワインです。肉厚なボディに黒系の果実の風味。黒鉛のような芯の通った風味もあります。きめ細かいタンニン。個人的にはこのディナーのベストでした。


スチュワート・セラーズはヨントヴィルにあるワイナリー。2000年に設立されています。ベクストファーのト・カロン、ドクター・クレーン、ミズーリ・ホッパー、ジョージIIIといった素晴らしい畑とも契約してワインを作っています。今回のワインは2019年のリザーブ・カベルネ・ソーヴィニヨンでHannah Vineyard80%、Juliana Vineyard20%という構成。
スタッグリンと比べるとより果実味が強く芳醇な味わい。果実味が好きな人はこれが合うと思います。

最後にスペシャル・ワインとして1996年のフィッシャーのカベルネ・ソーヴィニヨンを出していただきました。まだまだ濃厚でリッチな味わいのカベルネ・ソーヴィニヨン。貴重なワインをありがとうございます。




ディナーは昨日もそうでしたが豪華な食事というよりも、食材の美味しさをシンプルに引き出したものが中心です。野菜のグリルにチキンやビーフのローストを取り分ける形でのディナーでした。特にポテトやピーマン、アスパラガスといった野菜のグリルは美味しく、カリフォルニアはやはり野菜が美味しいと再確認しました。なお、取り分ける形になっていたのは少食な人も大食いな人も自分に合わせて取れるようにというNVVの気遣いからのものでした。



Date: 2023/0423 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ランチの後はカリストガまで行き、山腹にあるジェリコ・キャニオン(Jerico Canyon)を訪問しました。

ナパに詳しい人はわかると思いますが、午前中のカーネロス(ハドソン)から昼のラザフォード(トレ・サボレス)、午後のジェリコ・キャニオンと、だんだん北上していっています。一般的にはナパでは北に行くほど暖かくなりますが、この日は最高気温12度くらいとかなり寒く、それほど気温差は大きくありませんでした。ただその中でもラザフォードはさすがに少し暖かく、日向にいればポカポカとした感じがありました。

カリストガの中でもかなり深いところにあるジェリコ・キャニオンではラザフォードよりも風の冷たさを強く感じます。このときは西から風が吹いてきていたので、「チョーク・ヒル・ギャップ」と呼ばれるソノマの太平洋側に向けての谷間から流れてくる冷たい空気が入ってきていたようです。セント・ヘレナあたりが一番気温が高く、カリストガにいくと少し気温が下がるというのは、これまで聞いていたものの、実際に体験するとそれがよく理解できます。

ジェリコ・キャニオンはカリストガの中で北東方面にある畑。マウント・セントヘレナの南側の山麓になります。元々この地域がジェリコ・キャニオンという名前で呼ばれており、その名前をワイナリー名として使っています。ここ自体がキャニオンという名の通り、峡谷のように両側に丘があります。大まかにいうと、東向きの斜面と西向きの斜面があり、それぞれにブドウが植えられています。火山性の安山岩を中心にした土壌で石がごろごろしているのも特徴です。ナパの火山性の土壌というと鉄分の多い赤い土のところが目立ちますが、安山岩は比較的黒い色の火山岩です。ここはカルデラになっていて溶岩が流れ出た後に圧力で隆起したとのこと。圧力による変成で、石の一部にクリスタルのようなきらきら光る部分があります。
http://res.cloudinary.com/http-californiawine-jp/image/upload/f_auto,q_auto/v1/ENV2023-2/DSC05245_bnfqlz.jpg?_i=AL
ケーブはこの石の丘をくり抜いて作ってあるので、相当大変だったのではないかと想像します。ケーブの奥にはその石が見られるようになっているところもありました。

ちなみにケーブの中には樽が並んでいるのですが、通常の樽のサイズのもの以外に大きな樽や小さな樽もありました。その役割を聞いたところ、大きな樽は発酵用に使っていて、小さな樽は、樽の中身が蒸発して減ったときの補充用に使っているとのことでした。

大きい樽


ワイナリーは1989年に設立。そのときに植えたカベルネ・ソーヴィニヨンが今も少し残っています。地所が350エーカーくらいある中で40エーカーほどがブドウ畑になっています。

畑に出ます。一番低いところは標高60メートルほど。高いところでは180メートルほどになります。フォグラインと呼ばれる霧のかかる高さよりは低いところになるので、霧の影響は大きくなります。暑い時期には10時くらいには霧が晴れますが、涼しくなると昼過ぎまで霧がかかることもあります。夏場だと最低気温は10度を少し超えるくらい、最高気温は40度を超えることも珍しくなく、30度という大きな日較差になります。夜にブドウが冷やされることで、ブドウの酸が保たれ、フェノール類がゆっくりと蓄積して長い熟成期間になります。

東向き斜面のところから西向き斜面を望む

まずは東向きの斜面から。こちらの方が標高は少し低くなります。斜面のせいで昼過ぎには太陽が隠れてしまいます。斜度は35度くらいと、かなり急ですが、反対側の西向き斜面では斜度65度くらいのところもあるそうです。急な斜面のため、収量は1エーカーあたり1.5トン程度とかなり少ないです。樹が若くても凝縮した果実が取れるのが特徴です。

また、斜面の上と下では4~5度くらい気温が変わるとのことです。そのため収穫も1カ月半くらい変わってきます。マイクロクライメットが様々あり、畑全体では65もの区画に分けています。

今年は例年より気温が低いこともあり、まだカベルネ・ソーヴィニヨンはほとんど芽が出ていませんでした。


ここの畑ではカバークロップは1列おきに植えています。マスタードなどを使っており、栄養の循環を主な目的にしています。

ワインは最初にケーブで説明を聞きながらソーヴィニョン・ブランを味わいました。濃厚でねっとりとしたグリセリンを感じる味わい。酸もあり、濃い系のソーヴィニョン・ブランが好きな人にはたまらない味でしょう。かなり妖艶な雰囲気もあります。

畑では東向きの斜面でEast Elevationという、この斜面のカベルネ・ソーヴィニヨンで作ったワインを、西向きの斜面ではWest Wallというその斜面のカベルネ・ソーヴィニヨンを試飲しました。どちらもヴィンテージは2018年です。

East Elevationは濃厚ですが、旨味やスパイス、酸も強く感じます。エレガント系なカベルネ・ソーヴィニヨンです。West Wallは濃厚でパワフル、ジューシー。どっしりとした重みがあります。太陽の当たり方による違いをよく感じられました。もちろんどちらがいい悪いではなく好みの問題であり、どちらも素晴らしいワインでした。

Date: 2023/0423 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ナパツアー3日目その1ーーsナパのラザフォードにある小さなワイナリー「トレサボレス(Tres Sabores)」でナパにおけるサスティナビリティやオーガニック栽培について学びました。

畑はラザフォードの西側。いわゆるラザフォード・ベンチと呼ばれる山麓にあります。畑のすぐ上からはかなり急な傾斜になっています。1987年に購入した畑ですが、最初はフロッグス・リープで使うためだったそうです。10エーカー(約4ヘクタール)というこじんまりとした畑で、当初はすべてジンファンデルを植えていました。1989年に一部カベルネ・ソーヴィニヨンに植え替えています。敷地の中には150本のザクロの木もあり、オリーブも植わっています。オリーブの木の中には1890年代からの古いものもあるそうです。畑はカリフォルニアのオーガニック認証を得ています。


このほか、羊や山羊を飼っていたり、豆類など様々なものを植えていたりしており、広く深く多様性に溢れています。
ミツバチの巣箱も2つあり、ミツバチを管理する専門の会社の人を雇っています。ハチは受粉を助けてくれます。この季節はちょうど新しい女王蜂が巣を作る時期であり、私達が見た巣箱は、ハチの子供を育てているところとのことで、外に出ているハチはほとんどいませんでした。ちなみにこの時期の巣箱の中は華氏94度(摂氏35度超)を維持する必要があるそうです。

ブルーバードの巣箱もあります。鳥は害虫を食べてくれる大事な役割があります。

生産物をゴミにするのではなく、自然に戻していくという活動も行っています。例えば木を切ったものは細かいチップにして通路などに使っています。羊や山羊の糞、ブドウの種などはコンポストにして肥料として使います。

畑のカバークロップではマメ科の植物を中心に植えています。マメ科の植物は空気中の窒素を吸収して「根瘤」という根のコブに蓄えます。これで窒素を地中に戻すことができるわけです。カバークロップを刈り取っても根の部分は残りますから役割は果たせます。カバークロップはそれによって水分を保持するという役割もあります。ワイナリーによっては、カバークロップが水分を使うことでブドウに行く水分を少なくすることを期待しているところもあります。カバークロップに使う植物の種類によってもその役割は変わるので、なかなか理解するのが難しいところです。ここでは、カバークロップを使うことで灌漑なしのドライ・ファーミングを行っているとのことです。


ジュリーは、ナパ・グリーンというナパにおけるサスティナビリティの認証プログラムをリードする役割も担っています。ナパ・グリーンには2020年頃までに90%を超えるワイナリーが参加して認証を受けていましたが、その後、認証の基準を大幅に厳しくし、それまでの認証はリセットするという大きな変革を行いました。新しい認証基準では特に人を大事にすることなどソーシャル・レスポンシビリティ(社会的責任)における基準が厳しくなっています。このあたりからもナパのサスティナビリティの取り組みに対する真剣さが伝わってきます。

ワインはまずプティ・シラーとジンファンデルのロゼを飲みました。糖度20というかなり糖度が低い状態で収穫し、プレスした後、90分だけ果汁と果皮を接触させています。風味の強いブドウ品種だけあって、これだけの接触でもちゃんとロゼとしてしっかりした味が出ていました。

その次は樹齢51年のジンファンデルです。かなりエレガントで美味しい。ラザフォードのジンファンデルというイメージとはだいぶ違っています。7エーカーという小さな畑ですが、土壌の違いなどにより、収穫は4回に分けて行います。30%新樽で22カ月樽熟して出荷しているとのことです。

最後にTres Saboresというワイナリーの名前ですが、メキシコ人などがよく歌う「Sabora Me」という歌から影響を受けているそうです。ラテン系の人は考え方が明るく、それに共鳴しているそうです。また、ワインには品種、土壌、そして一緒に飲んでいる人たちという3つのフレーバーがあるということもかけているとのこと。

ワイナリーの説明の後はバーベキューランチです。スペアリブを長時間スモークしたテキサス系のバーベキューで、堪能しました。サラダにはこのワイナリーのザクロを使ったソースがかかっていたり、食後のアイスクリームにここで取れた蜂蜜をかけて食べたりと、地産地消を地で行く食事でもありました。

また、食事のときにはClos Pagese、Girard、Materra、Monticello、Pejuの人も来てそのワインを紹介しました。Clos PegaseやGirardは日本でも定番のワインです。それ以外のワインの中では、かなりエレガントなMonticelloのシラー、おまけで出してもらったPejuのカベルネ・フランが良かったです。

Date: 2023/0420 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ナパのカーネロスにあるハドソンの畑を見学に行きました。

ハドソンは今月「絶妙なシャルドネにエレガントな赤、ハドソン・ヴィンヤーズ」という記事を書いているので、そちらも合わせて読んでいただけるとありがたいです。というか、試飲したワインは基本的には同じラインアップ(カベルネ・フラン・ブレンドのオールド・マスターだけは違うヴィンテージ)で、今回は畑の見学で歩きながらの試飲でしたから、前回の記事の方が、ワインに関してはきちんと書けていると思います。

一応、簡単に書いておくとエステート・シャルドネはむちゃくちゃ美味しく、リトルビットのシャルドネはさらに美味しいです。「コシュデリ以上」との声も聞かれました。赤ワインのフェニックスはリッチで深い味わい、オールド・マスターは赤果実の風味と香りが素晴らしいです。この旅で、カベルネ・フランにさらに興味がわいたのでオールド・マスター購入しました。あ、リトルビットもです。

CEOのピーター

Old Masterはラベルの色が変わってかっこいい


ということで、今回は畑について実際に見学した話を書いていきます。
Hudson
見て回ったのは★のマークの建物から南に行って、「Old Master」のブロック、それからここでは「Ed」と書いてあるシャルドネのブロック(今回の話では「Eブロック」と言っていました)、もう一つ南の「Little Bit」のシャルドネのブロックです。

Old Masterはカベルネ・フランとメルローのブロック。「Phoenix」「Old Master」2つの赤ブレンドで使われています。Phoenixはメルロー中心のブレンドで、ほかにもいくつかのブロックのブドウを使っています。「Old Master」はカベルネ・フラン中心のブレンドです。

ハドソンのあるカーネロスは粘土質の土壌が多いところ。粘土質のやや水はけが悪い土壌は、水を多くほしがるメルローに合っているとされており、冷涼な地域でありながら実際にシャルドネとピノ・ノワールの次に多いのはメルローです。ただ、ハドソンの畑はパッチワークのように違う土壌があり、石の多い火山性土壌のところもあります。しかも不思議なことに、海に近い標高の低いところに火山性土壌が見られるそうです。オールド・マスターのブロックではオフィスに近い北部分が粘土質で、オフィスから遠い南側が火山性の土壌になります。この土壌はカベルネ・フランに向いており、メルローには不向きです。

実はこのブロックのところは1980年代にピノ・ノワールを植えたことがあったのですが、うまくいかず、2003年にカベルネ・フランとメルローに植え替えたのだそうです。

そのため、ここではブロックの列の途中で品種を切り替えるという珍しい形になっています。品種だけでなくルートストック(台木)も変えているそうですが、それは見た目ではわかりませんでした。

ハドソンの畑では基本的に「ケーン・プルーニング」を行っています。「長梢剪定」と呼ばれる方式です。太い樹の幹は垂直部分だけで、そこから2年目の枝を「ケーン」として針金に添わせて左右に広げるのが基本です。そのケーンから出た「シュート」が上に伸びていって実をつけます。この方式だと樹勢に応じてケーンの数を変えるなど、比較的臨機応変な対応が可能になります。そういった点が冷涼な寄稿にむいているのだそうです。以前は太い幹を左右にも広げる「コルドン」を使っていましたが、だんだんとケーンに切り替えています。



写真でも土壌の色の違いがわかると思います。火山性の土壌は鉄分が多く、赤っぽく見えます。

雑草を刈り取るトラクターの実演もしてもらいました。


ここはシャルドネの「Eブロック」でキスラー専用になっています。キスラーのリクエストで、通常樹と樹の間を4フィートにしているのに対してここは3フィートにしています。
ハドソンのシャルドネはすべて「オールドウェンテ」。正式なクローンの名前ではなく、カリフォルニアで代々受け継がれてきたクローンと言われています。ブドウの房は野球のボールくらい、ひどいときにはゴルフボールくらいにしか成長しないとのこと。また、房の中でも様々な大きさの実ができ、熟すペースもバラバラです。赤ワインでは困ってしまう特徴ですが、シャルドネの場合はそれが味わいに深みをもたらすとのことです。実が小さくて果皮の割合が高いのもフレーバーを強くするのに役立っています。


この、針金に結びつけてある茶色のビニールタイみたいなのがなにかわかるでしょうか?
これは虫対策でつけているフェロモンを出すものだそうです。ここから出るフェロモンで、メスは樹の周りにくっつき、オスは混乱して近寄れずに空中をうろうろするのだとか。

ところで、キスラーのブロックは粘土土壌、その先の「リトルビット」のブロックは火山性の土壌なのですが、どちらもシャルドネが植わっています。シャルドネはあまり土壌の好き嫌いがない品種だそうで、「シャルドネって偉いやつ」と思いました。

Date: 2023/0419 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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この日も比較的ゆっくりしたスケジュールで、トルシャードの後はナパのホテルにチェックインし、1時間くらい自由時間がありました。その後はプリチャードヒル(Pritchard Hill)に向かいます。

お約束のナパヴァレーサインにも立ち寄りました。

今回のツアーはナパが初めてという人も多いので、バスの中でもところどころで見どころや地域の解説をしながら進みます。マヤカマス山脈とヴァカ山脈とか、ここがオーパス・ワンだとか。自分で言いだしたのですが、ぼうっとする暇もなく、なかなか忙しいです。

バスは山道に入り到着したのはシャペレー(Chappellet)です。プリチャードヒルという名前の商標はシャペレーが持っており、他のワイナリーはラベルなどに使えません。この地域がAVAになっていない理由です。

ここではディナーをいただくのですが、シャペレー以外に5つのワイナリーからワインメーカーが来ます。

まずは畑の前で白ワインを飲みながらそれぞれのワインメーカーから話を聞きます。
シャペレーからは珍しいシュナン・ブラン。プリチャードヒルではここにしかないそうです。爽やかで美味しい。


ここのシュナン・ブランはこのように両側の枝を平行に2つずつ伸ばした形でプルーニングされています。その話などを聞いていたらいつのまにかグラスを持っていかれてしまってほかのワインはほとんど飲めませんでした。申し訳ない。


ディナーは屋内のセラーでいただきます。この建物、天井が高くかなりかっこいい。オーナーが考えたものだそうですが、「カテドラルみたい」と言われたこともあるそうです。




ワインはトレフェッセン(Trefethen)のドラゴンズ・トゥース(Dragon's Tooth)2019からです。珍しいマルベックとプティ・ヴェルドのブレンド。どちらもかなり濃いワインになるブドウですが、マルベックはブルーベリー的なフレーバー、プティ・ヴェルドはしっかりしたタンニンによるストラクチャーが特徴的です。このワインはその2つの要素があり、産地であるオークノールの冷涼さからくると思われるしっかりとした酸があるので、ただ濃いだけでないバランスの取れたワインになっています。早い話が美味しいです。


次はシレノス(Silenus)のメルロー。これが意外にヒットでした。赤果実を中心とした明るい味わいで前のドラゴンズ・トゥースとは対照的な軽さがあります。タンニンもありボディはしっかりしています。これもオークノールのブドウでありほどよい酸味が味を引き締めます。メルローの良さがあって適度にしっかりしたワインは意外と見つかりにくいのでこれは良かったです。
ちなみにシレノスからは日本人の赤星映司さんが参加していました。感想を伝えたらとても喜んでいただけました。


3本目はシニョレッロ(Signorello)のPadroneカベルネ・ソーヴィニヨン 2007。シニョレッロは2017年の火事でワイナリーが焼失してしまうという大きな損害を受けました。この古いヴィンテージのワインは別の倉庫に保存してあったので難を逃れたものです。もう16年たっているワインですががっしりとしたタンニンがあり、とてもパワフルなワイン。果実味もブルーベリーやカシスなどかなり濃厚な味わいです。


セコイア・グローヴ(Sequoia Grove)のCambiumレッドブレンド2016です。ほどよい酸味と豊穣さがあり、やや強めのタンニンがあります。これも美味しい。


次はスタッグス・リープ・ワイン・セラーズ(Stag's Leap Wine Cellars)のFAYカベルネ・ソーヴィニヨン 2019です。パリスの審判の1位になったワインを生んだSLV(Stag's Leap Vineyard)と並んだ位置にある銘醸畑です。もともと創設者のウォーレン・ウィニアルスキがFAYのワインを飲んで感銘を受けて隣の地所を買ったというのがきっかけになっています。その後FAYの畑の持ち主のネイサン・フェイが畑を売りに出して購入しました。
ハーブや腐葉土、マッシュルームなど果実以外の要素を強く感じます。さすがにきれいで美味しいカベルネです。
ワインメーカーにはSLVとの違いを聞いてみました。FAYとSLVはならんでいますが土壌は結構違うそうです。FAYの畑は畑の上にある巨大な崖から崩れたものが中心の土壌です。FAYとSLVの間には小川があるのでこれはSLVには行きません。その結果、FAYは表土が6~8フィートあるのに、SLVは1.5フィートくらいしかありません。灌漑もFAYは1年で4回くらいで済むのにSLVは8回は必要だそうです。
味わい的にはFAYがきめ細かいタンニンを持つのに対し、SLVはパワフルでスパイシーな風味になるそうです。


最後はシャペレーのプリチャードヒル・カベルネ・ソーヴィニヨン2019。非常にパワフルなワイン。スパイシーでシルキー。果実味も強いですがそれ以上にストラクチャーを感じます。カベルネ系の中ではFAYとこれが双璧でした。

このワイン、これから海外のディストリビューションはボルドーのネゴシアン・システム「ラ・プラス・ド・ボルドー」を通すことになります(シャペレー、トップの2ワインを「ラ・プラス・ドゥ・ボルドー」で販売)。このシステムを使うことにはいろいろ是非もあります(ボルドーネゴシアン経由のワイン流通は成功の方程式か?)。そのあたりを率直に聞いてみました。

もちろん、これらの事象は分かった上でのアプローチです。メリットとデメリット両方ありますが、今のままでは輸出を増やすのが難しいため、デメリットを受け入れた上でメリットを訴求していく考えだとか。実際に輸出が始まるのはこれからなので、現在は様々な策を考えているところのようです。

このあたりは日本におけるワインの流通や価格にも大きく影響するので、これからも注目していきたいと思っています。

ともあれ、美味しいディナーとワイン。そしてワインメーカーたちとの話はとても楽しく、ためになりました。
Date: 2023/0418 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ナパツアー二日目、といっても初日はナパには行っていないので実質初日です。まずはゴールデンゲートブリッジを通って、カーネロスのトルシャードに向かいます。

トルシャードはカーネロスに260エーカーの畑を持つワイナリー。創設者のトニーとジョアンのトルシャード夫妻はテキサスの出身。トニーは陸軍の軍医でいろいろなところに行っていましたがカリフォルニアでの任務をきっかけにブドウ畑を始めることを考えました。テキサスと比べると土地が高く、比較的安価だったカーネロスは、専門家に意見を求めたところ「ブドウを育てるには涼しすぎる」と否定されました。それでも、カーネロス初期のワイナリーであったカーネロス・クリークから「シャルドネとピノ・ノワールを買い取る」とか「畑作業の人を出す」などの好条件をもらってブドウ畑を始めました。今から50年前の話です。

写真はジョアン。現在は息子のアンソニーが引き継いでいます。

当初は週末だけナパに来るような生活でしたが1989年に完全移住し、ワイナリーも始めました。
栽培はシャルドネとピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨンが中心。ルーサンヌやテンプラニーリョ、プティ・ヴェルド、ジンファンデルといったブドウも作っています。最初にルーサンヌをいただきましたが、イキイキとした酸とやわらかな果実味があってとても美味しかったです。ちなみにルーサンヌはかなり小さな畑だそうですが、成熟が不均一なので収穫は3、4回に分けないといけないそうです。数の多いシャルドネよりもその点では手間がかかります。

ちなみに、カベルネ・ソーヴィニヨンやジンファンデルといった温かいところに向くブドウをカーネロスで育てるのは難しくないか聞いたところ、ジンファンデルの畑などは標高400フィートの小高いところにあって、ほかよりも温かいのだそうです。

このほか貯水池が7つあって、灌漑に使っているとか、1973年の最初のときからドリップイリゲーション(点滴灌漑)のシステムを入れていたといった話を伺いました。

シャルドネの畑は既に芽吹いていますが、向かいにあるカベルネ・ソーヴィニヨンはまだ芽吹いていません。3週間くらい違いがあるそうです。
若い枝(ケイン)を伸ばす、いわゆる長梢剪定(ギヨ)の方式を使っています。樹齢などによって一つの木から2~4本伸ばすとのこと。この剪定はこのように木によって伸ばす本数を変えられるのがメリットと行っていました。

畑を見た後はランチです。この日は、ナパの様々なワイナリーのシャルドネを飲み比べるという形でした。

まずはトルシャードのシャルドネの話から。ここは濃厚になりすぎない、食事に合うようなワインを作ることをモットーにしています。シャルドネでは樽発酵樽熟成を使っていますが、新樽は30%と控えめ。マロラクティック発酵も25%に抑えています。なお、ステンレスタンクの発酵よりも樽発酵・樽熟成の方が樽香の付き方が柔らかくなります。発酵の温度を12、13℃程度と低めに保って過度の抽出を防いでいます。

左から3番めがトルシャード。果実味がきれいで優しい味わい。ほっとするワインです。このシャルドネ、H・W・ブッシュ元大統領の奥さんだったバーバラ・ブッシュさんのお気に入りだったとか。

一番左はアミーチ・セラーズ(Amici Cellars)。ベクストファー・ト・カロンなどナパの銘醸畑のブドウを使って近年注目されつつあるワイナリーです。このシャルドネもナパのハイド・ヴィンヤードのもの。濃厚ですがやりすぎず、うまみを感じる作り。「コシュデリよりうまい」という感想もきかれました。

2番めはガーギッチ・ヒルズ(Grgich Hills)。この4月1日にマイク・ガーギッチが100歳になったのを祝って、スペシャルラベルになっています。

かなり濃くパワフルな作り。樽香も比較的出ています。ミネラル感もあり多くの人に好まれそうな味わい。

4番目のカンパイ・ワインズ(Kanpai Wines)はスティーブ・マサイアソンがワインメーカーを務めるワイナリー。最初はロゼだけを作っていましたが、ラインアップを拡大しているようです。なお、以前は日本への輸入がありましたが、今はありません。
参考:トレンドマイクロの危機対策? 火災の副産物で生まれたロゼ
これもオークノールの自社畑のブドウによるもの。かなりリーンな作り。スティーブ・マサイアソンらしいワインではありますが、個人的にはあまり響きませんでした。

5番目のトロワ・ノワ(Troix Noix)は、かつてアラウホ(Araujo、現アイズリー・ヴィンヤード)を持っていたアラウホ夫妻の娘であるジェイミー・アラウホのワイナリー。シャルドネはMuir Hannaという畑ですが情報がほとんどありません。John Muirというナチュラリストの植物学者の娘がやっているようです。以前はワインも作っていたようですが、現在は畑だけと思われます。ナパ市なのでサブAVAには属していないかもしれません。
ところがこのワイン、個人的にはこの日のトップでした。酸がしっかりしており旨味もあります。バランスよくとても美味しい。

最後はMonne Tsaiというワイナリーのシャルドネ。美味しかったですが、実は畑がソノマだったので略します。

このほかトルシャードのピノ・ノワールもいただきました。赤果実がチャーミングでこれも良かったです。

Date: 2023/0418 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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サンセット・セラーズの後、「ナパを脱出する? ケイマスの新たな挑戦」で書いたケイマスがサスーン・ヴァレーに開いた新しいテイスティング・ルームに伺いました。

このテイスティング・ルーム、かなりの人気のようで、予約はなかなかとれないそうです。今回も予約はいっぱいだったのをサンセット・セラーズから「日本のすごいブロガーが来る」(笑)と交渉していただいて席を用意していただいたとのこと。



全面ガラス張りで美しさがひかります。アップルストアと同じ人が設計しているとのことに、なるほどと感じました。

このサスーン・ヴァレーは西風が強く吹き付けるところ。テイスティング・ルームはその風をうまく通したりブロックしたり、コントロールできるようになっています。空調やライトなどもインテリジェントにコントロールされています。


外光を取り入れる工夫もあります。


ケイマスはヤシの木をトレードマークにしていて、ケイマスにブドウを提供している畑には周囲にヤシの木が植えられています。テイスティングルームも「本山」としてヤシの木が立ち並んでいます。




ここで作っているワインは現在のところこの2種。Grand Durifと呼ぶプティ・シラーと、Walking Foolという名のジンファンデルとプティ・シラーのブレンドです。サスーン・ヴァレーにあるケイマスの畑では、気候変動に耐える品種を試すという面もあり、ヴァルディギエなど多様な品種を実験的に植えていますが、製品として作っているのはこの2つだけです。Walking Foolというのは変わった名前ですが、ケイマスのワグナー家にちなんだエピソードが裏ラベルにかかれています。ワグナー家の当主であるチャック・ワグナーはサスーン・ヴァレーの出身ということで、家族としてのアイデンティティをここに求めているという印象を持ちました。

ワインはモントレーのサンタ・ルシア・ハイランズで作っているメル・ソレイユ(Mer Soleil)などワグナー家のワイナリーの様々なワイン10種ほどを試飲させていただきました。

ワインの中ではサスーン・ヴァレーの2つのワイン、メル・ソレイユのシルバー(樽を使わないシャルドネ)と、リザーブ・シャルドネがよく出来ていました。サスーン・ヴァレーの2つのワインは果実味が濃厚で大柄なワイン。爆発的な果実味は多くの人にアピールできそうです。前の記事でも書きましたが、やっぱりプティ・シラーは面白い。個人的に探究したいテーマになってきました。
メル・ソレイユの2つのワインは対照的。シルバーはマロラクティック発酵もなく、柔らかくリンゴやカリンの風味。酸もほどよくあります。リザーブのシャルドネはバター感もありますが、バランスよくできています。どちらも作りの上手さを感じます。

ナパのケイマスも作りの上手さを感じますが、どのヴィンテージも安定した味わいすぎて、面白みはちょっと少ないかもしれません。ケイマスの味が好きという人にはもちろん、それがいいのだと思いますが。
Date: 2023/0418 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ナパヴァレー・ヴィントナーズのナパツアーに来ています。初日はサンフランシスコで自由行動ということで、ナパの隣のソラノ・カウンティで日本人が持っているワイナリー「サンセット・セラーズ(Sunset Cellars)」に遊びにいってきました。AVAでいうとグリーン・ヴァレー(Green Valley、ソノマだけでなくソラノにもあるのです。ソノマは正確にはグリーン・ヴァレー・オブ・ロシアンリバー・ヴァレーといいます)やサスーン・ヴァレー(Suisun Valley、発音はススーンという方が近いようですが、カタカナ表記ではサスーンとすることが多いようです)になります。ここには昨年ケイマスも進出(「ナパを脱出する? ケイマスの新たな挑戦」)しており、新しい畑を作るのが難しいナパをサポートする地域としても注目が高まっています。




この看板も井上恭輔(きょろ)さんが設計して作ってもらったのだとか。DIYでいろいろ作っていてとてもおもしろいところです。

こちらは足湯。アメリカ人も大好きらしいです。

もちろんワインも試飲しました。

ジンファンデルのスパークリング。チャーミングな香りに、ちょっとグリップ感もあってジンファンデルらしさも残した美味しいスパークリングです。

Moonlightというシャルドネ。柔らかな味わい。青りんごの風味。
このワイン、ラベルがむちゃくちゃきれいでおしゃれです。ワイナリーから見える山の稜線をかたどっているのですが、このラベルは米国で作るのは難しく、日本で作ってもらったのだとか。
今度はこれと対になる「Sunrise」というのを作ってとお願いしてきました。


で、これは実はSunriseと書かれた「ビール」です。製造を委託したHereticというブルワリーはクラフトビール好きにはよく知られているところなのだとか。いちごの香りがするけれどフルーツビールのように甘くはなくボーンドライ。面白くて癖になりそうです。

プチ・シラーです。パワフルで濃厚な果実味。プチ・シラーらしい味わいですがバランスもよい。プチ・シラーの人気をもっと高めたいという話で盛り上がりました。

このワイナリーのシグニチャーであるバルベーラ。2014年は前オーナーの時代に作られたもの。今もそのレシピを引き継いでいます。ポートのような濃厚な味わい。バルベーラのがっちりとした酸があってのものでしょう。

とても楽しく試飲させていただきました。ケイマスの話は次の記事で。
Date: 2023/0414 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ナパヴァレー・ヴィントナーズは山火事対策のための防火道路などに210万ドルを投資すると発表しました(Napa Valley Vintners Gives $2.1 Million for Wildfire Resiliency)。

2022年には消防隊のための通信設備に250万ドル、山火事のモニタリングシステムに330万ドルを投資しており、今回と合わせると790万ドル、日本円で10億以上を山火事対策にかけていることになります。

今回の投資は100マイル(約160km)の防火用道路の確立などに充てられます。この道路は消防隊が火事の現場になるべく早く着けるようにすることや、延焼を食い止めるための緩衝帯になることを目的としています。

このほか、山火事のリスクを軽減し、生態学的利益を最大化するための、最大 300 エーカーの生息地を作ることや、 土地所有者と住民計400人に、森林の健全性と山火事への回復力に関するリソースと教育を提供することにも使われます。

2022年秋の「コレクティブ・ナパヴァレー」における募金が今回の資金に充てられるとのことです。
Date: 2023/0406 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ナパで最高のワインメーカーの一人として知られるアンディ・エリクソン。元スクリーミング・イーグルのワインメーカーであり、現在はマヤカマスやト・カロン・ヴィンヤード・カンパニー、ダラ・ヴァレなどでコンサルタントを務めています。また妻のアニー・ファヴィアとともにクームズヴィルにファヴィアを設立、直近ではオークヴィルに畑を購入しています。

そのアンディ・エリクソンが「アペレーションに縛られることなく、カリフォルニア中の特筆すべきヴィンヤードで造られたブドウを使⽤し『ヴィンテージごとに最⾼の⾚ワインを造る』という、唯⼀の⽬的のため、設⽴されたプレミアムワイナリー」がリヴァイアサン(Liviathan)です。2004年から毎年赤ワイン1つだけを作っており、2020年のヴィンテージからJALUXが輸入を始めました。プレミアムではありますが、希望小売価格は9600円と、アンディ・エリクソンが作る赤ワインの中では最安の部類に入ります。クオリティの高さを考えるとプレミアムワインの中では非常にコスパの高いワインです。今回は古いヴィンテージのものを含めて飲ませていただきました。


2004年に始めたときはわずか400ケースだったリヴァイアサンですが、毎年北カリフォルニアのいろいろなところを回って素晴らしいブドウを作る畑を探して今に至ります。リリースしてすぐでもおいしく長熟も可能で緻密な味を目指しているとのこと。

近年はカベルネ・ソーヴィニヨンがベースになっています。ほかにはメルロー、カベルネ・フラン、シラーやプティ・シラーが定番になっています。カベルネ・ソーヴィニヨンは黒果実やストラクチャーの要素を与え、メルローはブルーベリーの風味やジューシーさ、カベルネ・フランはスパイスやアロマ、シラーやプティ・シラーはチョコレートやリッチな味わいの要素をプラスしているといいます。また、畑はカベルネ・ソーヴィニヨンについては岩の多く標高の高いところ、メルローは粘土質でやや涼しいところ、シラーやプティ・シラーは岩があって少し暖かいところを選んでいます。

リヴァイアサンで使っている畑のマップです。ナパ・ソノマのほかレイク郡やシエラ・フットヒルズの畑もあります。ソノマでも個人的注目のムーン・マウンテンや、ちょっとマイナーなファウンテングローヴの畑を使っているというのも面白いところ。

試飲したのは2020、2019、2017、2011年です。
まずは2020年。青果実、黒果実、赤果実いずれの風味も感じます。シラー由来かブラックペッパーのようなスパイシーさやチョコレート感も。アルコール度数はやや高めの14.9%で若干重さは感じますが、フルーツの味に軽さがあるのでバランスは取れています。
2020年は山火事が多く、ナパやソノマでは醸造を諦めたワイナリーも数多くあります。リヴァイアサンでも畑の一部しか収穫できなかったところなどがあり収量は減ったそうですが、品質自体は素晴らしいとのことです。

2019年はクラシックなヴィンテージ。2020年よりも青果実のトーンを強く感じ、パワフルで濃厚。チョコレートやモカ、黒鉛のニュアンスも強くなっています。

2017年は熟成の要素が少しでてきています。杉の木やスパイス、赤果実の要素が多く、リッチですが2019ほどのパワフルさではありません。血液やタバコも感じます。

2011年は冷涼な年で、ナパでもブドウが完熟しない畑が多くありました。結果として果実味よりもセイバリーと言っているようなハーブや杉のニュアンスがより強くなっています。赤果実も強く、ボルドーの赤ワインのような感じです。リヴァイアサンの熟成力はかなりあると思いました。



今回はホテルオークラの桃花林という中華のレストランでの食事に合わせました。ワインに合うようシェフが工夫してくれたそうで、非常に素晴らしい食事でした。


Date: 2023/0405 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ハドソンの記事を書いたので、続いてハドソンの生産者ランチの報告をしておきましょう。今回は創設者のリー・ハドソンさんが奥さんのクリスティーナさんと10年ぶりの来日。プライベートな旅行がメインだったそうですが、東京ではイルドコリンヌでランチが開かれました。ちなみにクリスティーナさんは中学生のときに愛知県に、大学生のときには慶応に留学経験があり、日本語も上手です。



ハドソンの創設者のリー・ハドソンは子供の頃から農業に興味を持っていて、大学でも園芸を学びました。1975年から76年にかけてはブルゴーニュのドメーヌ・デュジャックで収穫の手伝いをしました。後にテッド・レモンが米国人としては初のワインメーカーになるワイナリーですが、リーはデュジャックで働いた最初の米国人だったそうです。ここで土地の個性をワインに表現することや、卓越したものを達成するための姿勢などに共感して、ワイン造りを志します。77年にUCデーヴィスで栽培や醸造を学び、81年に29歳のときに、まだ土地が安かったナパのカーネロスに土地を購入しました。全く何もない土地を切り開いて畑や牧場にしていきました。現在では200エーカーのぶどう畑があり、14種類の品種が植わっています。

現在ではキスラーやコングスガード、オーベールといった超一流の生産者がハドソンのブドウ、特にシャルドネを購入し、トップクラスのワインを作っています。ハドソンのブドウを買っているワイナリーは30にもなるとのことです。一部はハドソン自身でワインを作っています。

今回はハドソン自身のワインを日本未輸入のものを含め6種類いただきました。


ハドソンはカーネロスの中でもナパとソノマとの郡境に近いところのナパ側にあります。上に畑のマップを載せましたが、かなり広大な土地で、畑も海に近い南側と、やや山に近い北側と大きく2つに分かれています。シャルドネの生産量が4割くらいあり、北側の畑がやや多いですが、南側にもシャルドネの畑があります。シャルドネは「ヘリテージ・クローン」(UCデーヴィスなどで管理しているクローンではなく代々受け継がれてきたクローン)の一つであるショット・ウェンテというクローンが植えられています。非常に小ぶりの房をつけるシャルドネで、果実も小さいのが特徴です。果皮の比率が高くなるためワインに奥行きが出るとのことです。

ワインはまずはエステートのシャルドネ 2020からです。これはシャルドネの各畑のブレンドで、ハドソンを代表するワインと言っていいでしょう。ハドソンの中ではエントリー的な位置づけで、新樽率は25%と抑えめ。樽熟成は11カ月。黄金色といってもいいくらいの見るからに果実感のある色合いで、白桃やスイカズラ、はちみつ、ナッツ、ミネラルなどを感じます。酸はやわらかく、きれいでするすると飲めてしまうワイン。美味しくていくらでも飲んでしまいそうで危険です(私はそんなに強くない方ですが、この日は思わずおかわりしてしまいました)。
ちなみに、2020年は山火事でワインを作るのをやめたワイナリーも少なくない年ですが、カーネロスは火事の地域からやや距離があり、上空は煙が見られたそうですが、ワインへの悪影響は避けられたとのことです。

次に日本未輸入のシャルドネ2つ。リトル・ビットとレディバグの2020年です。畑の名前は3年前に付けたとのことですが、家族のニックネームを使っています。リトル・ビットはお孫さん、レディバグは奥さんのクリスティーナのニックネームです。地図でわかるようにリトル・ビットは南の標高が低く海に近いところ、レディバグは北の山に近く標高が高いところなのですが、土壌はリトル・ビットが火山性でレディバグは砂地なのだそうです。海に近い方が砂なのかと思ったらそうではないとのこと。難しいですね。この2つのワインはどちらも新樽率が80%と高く、樽熟も22カ月と長くなっています。とはいえどちらも樽の印象が強いわけではなく、溶け込んでスムーズな味わいです。
どちらもむちゃくちゃ美味しい。最初のワインと比べるとややリッチな味わいでふくよかさが印象的ですが、その中でもリトル・ビットの方が酸がより感じられて個人的には好きでした。

白の4本目は当初の予定にはなかったワインですが、飛び入り参加です。この前の週にカベルネ・フランのワイン会をある方の自宅で開催し、イルドコリンヌの山本香奈さんも私も参加していたのですが(後日報告予定)、その方がハドソンのワイン会をするならと提供してくださったワインです。ホワイトスタディという限定品でラベルも真っ白。ビートルズのホワイトアルバムを意識したデザインだとか。ブドウ品種はトカイ・フリウラーノにリボッラ・ジャッラ、それに少しシャルドネが加わっています。スキンコンタクトなし、マロラクティック発酵なし、新樽なしの作り。スイカズラや白桃のピュアな味わい。優しい味です。アルコール度数も12.1%とかなり低め。

赤はフェニックスというメルロー中心のレッド・ブレンドの2020年と、オールド・マスターというカベルネ・フラン中心のレッド・ブレンドの2016年。フェニックスはボルドー右岸のポムロール、オールド・マスターはシュヴァル・ブランを意識しているそうです。
フェニックスはザクロやレッド・チェリーなどの赤果実に、黒鉛のようなしっかりとした風味が重なります。ちなみにこの名前は2016年の同ワインが2017年の山火事のときに奇跡的に難を逃れたことから付けられたとのこと。
オールド・マスターはフェニックスよりもさらに引き締まった風味。ミネラル感を感じます。個人的には非常に好きな味わい。名前はルネッサンス時代の芸術家に敬意を評したものだとのこと。

ハドソンの畑は前述のようにシャルドネが約4割。他の品種は多い順にメルロー、シラー、カベルネ・フラン、ソーヴィニョン・ブラン、グルナッシュ、アリアティコ、リボッラ・ジャッラ、トカイ・フリウラーノ、アルバリーニョ。カーネロスにあって意外なことにピノ・ノワールはありません。どうしてピノ・ノワールを作らないのか聞いたところ、「ビジネスとして成り立たないものはやりたくない。ピノ・ノワールは収量が非常に少なく儲からないんだ」とのこと。それでもリボッラ・ジャッラなどと比べたらずっと高い値段でブドウも売れると思うのですが、「そんなこともないんだ。リボッラ・ジャッラは1エーカーあたり6トンくらい収穫できるが、ピノ・ノワールはこのあたりだと1.5トンくらいしか収穫できない。安くてもリボッラ・ジャッラの方がお金になるんだ」とのことでした。




ハドソンの畑は今月ナパのツアーでも訪問するのですが、実際に畑を見てみるのが楽しみです。ただ、訪問する日はご夫妻はまだ日本でナパではお会いできないのが残念です。



Date: 2023/0404 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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近年、自然派ワインが人気だと聞きます。自然派とは何かというややこしい問題は置いておいて、ナチュラルなものに傾倒する人が多くなっているのは実感します。カリフォルニアでも有機栽培(オーガニック)に取り組む生産者は着実に増えています。昨年にはナパを代表する銘醸畑であるト・カロンが有機栽培の認証を受けました。天然酵母で発酵するワイナリーも多く、SO2の添加量も規定よりはるかに少なく抑えているワイナリーが多々あり、事実上「自然派」といっていいワインはかなりの数になるでしょう。

一方で、サスティナブルに取り組む生産者も増えており、こちらはもはや当たり前のようになってきています。

では、コンシューマーから見て、オーガニックとサスティナブルってどうですか? 
オーガニックは、まあまあ分かりやすいですよね。農薬を使わず自然に優しい農法で作っていて、好感度高いと思う人が多いのではないでしょうか。自然派ワインとしてオーガニックなものしか飲まないという人もいると思います。
一方、サスティナブルはちょっとわかりにくいですよね。農法においては農薬を減らすことは規定していても、全く使わないとまでは決めていません。オーガニックに向かう途中の人たちにも都合がいいようなものなんじゃない、などと思っている人もいるのではないでしょうか。「このワインはオーガニックだよ」というのと「このワイナリーはサスティナブルだよ」というのだと、オーガニックを選びたくなる人の方が多いだろうと思います。

先日、ナパのハドソン(Hudson)のオーナーのリー・ハドソンさんに「オーガニックについてはどう考えているのか」と聞いてみました。ハドソンはサスティナブルの認証は受けていますが、オーガニックとは言っていません。


「もちろん、オーガニックで栽培できる部分はそうしているけど、オーガニックかどうかは自分にとって最大の問題ではないんだ」とリー・ハドソン。
「それよりも大事なのはハドソンで働く従業員だ。50数人いる従業員にちゃんと給料を払って、家に住めるようにして、子供に教育ができる。そういった環境を続けていくことの方がオーガニックにこだわることよりも優先度が高いんだ」
つまり、農薬を全く使わないと決めてそれに縛られるよりも、ちゃんと作物ができて病気などでやられないようにする、そういった持続性をより大事にしているわけです。
オーガニックは農法だけを扱っていますが、サスティナブルは企業として持続していくことも含んでいます。そっちの方が大事だというのは言われてみれば当たり前ですが、気が付きにくいところです。

ただ、企業として持続していくことはワインの味とは無関係では? そういう意見もあるでしょう。確かに従業員の生活はワインの味に直結しないかもしれませんが、従業員をちゃんと守る会社とそうでない会社のどちらのワインを飲みたいと思うか。SDGsの考えも浸透してきていますから、従業員を守る会社のワインを選ぶというのは十分にあり得ることです。また、長期的に見たら、従業員が満足して働いている会社の方が、品質のいい製品を生み出していくだろうと思います。

この話は日本ワインの在り方についての話などにもつながっていくと考えており、ここ数日で何人かの私よりワイン業界の様々なことに詳しい方々ともお話させていただきました。その話もしたいところですが、長くなったし私の専門でもないので、割愛させていただきます。

個人的にはオーガニックよりサスティナブルが大事。そう考えるようになりました。
あなたはこの問題、どう考えますか?

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