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Date: 2025/0228 Category: おすすめワイン
Posted by: Andy
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しあわせワイン倶楽部でエチュードのピノ・ノワールとシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンが57%引きの激安になっています。現地価格よりもずっと安い大盤振る舞い。日本のインポーターの終売によるものなので、売り切れ次第終了します。

エチュードは1980年代にナパのカーネロスにトニー・ソーターが設立したワイナリーです。トニー・ソーターはダラ・ヴァレやスポッツウッド、アラウホ(現アイズリー)などナパの名だたるワイナリーの中でもトップクラスのワイナリーでワインメーカーを勤めていた人。1990年代からの「カルトワインブーム」の立役者の一人でした。

彼は元々ピノ・ノワールを作りたいと思っており、そこで設立したのがこのエチュード。エチュードには「練習」といった意味があり、ここでいろいろなピノ・ノワールを作りながら、いいピノのための学習を深めていっていました。

2000年代に入り、トニー・ソーターはワイナリーをベリンジャーに売却。現在はトレジャリー・ワイン・エステート傘下となっていますが、今もトニーの精神を引き継いでワインが作られています。トニー自身は現在はオレゴンで「ソーター」を設立して、ピノ・ノワールの探求を続けています。

今回セールのピノ・ノワールは「グレース・ベノワ・ランチ」の2020年。この畑は本拠地であるカーネロスの自社畑で様々なピノ・ノワールのクローンを植えています。ワイン・スペクテーターで92点、ヴィナスでは90点の評価。ヴィナスのレビューによると、濃厚パワフル系のピノ・ノワールのようです。現地47ドルが4510円と、1ドル100円だったっけ?と思わせる価格。



次のシャルドネも同じくグレース・ベノワ・ランチのもので2022年です。この畑、ピノ・ノワールが158エーカーに対して、シャルドネはわずか6エーカー。ワインも145ケースしか作られていません。ジェームズ・サックリングは1980年代や90年代のブルゴーニュのようだとして97点を付けています。なおヴィナスでは92点。どちらにしても高評価であることは間違いありません。現地40ドルがなんと3960円と税込み3000円台。



最後のワインは2019年のナパヴァレー・カベルネ・ソーヴィニヨン。実はエチュード、力を入れているのはピノ・ノワールなのですが、ナパのワイナリーでありカベルネの名手のトニー・ソーターが作っていたということもあり、カベルネ・ソーヴィニヨンもとても美味しい、というか常に高評価を続けていたのです。それもそのはずで、自社畑ではないですが、オークヴィルのヴァイン・ヒル・ランチ、クームズヴィルのメテオールなど垂涎の畑のブドウを使っています。このカベルネもジェームズ・サックリングは96点、ワイン・スペクテーターでも94点と非常に高評価。スペクテーターでは「ダークだがフレッシュで、マルベリーとブラックカラントの果実にアップルウッド、アニス、タバコが混じる。最初から最後まで素晴らしいエネルギーを示し、鉄のアクセントがフィニッシュまでしっかりとした感触を与える」としています。現地100ドルが税込み8910円と、1ドル80円換算(笑)。



今の為替を考えたらこの3倍の価格でもおかしくないワインです。だまされたと思って買ってください。


Date: 2025/0226 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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29回目となるプルミエ・ナパヴァレー・オークションが開かれ、2024年の300万ドルを超える330万ドルの総落札額を達成しました。ロットは合計194ロットでした。

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プルミエ・ナパヴァレー・オークションはプロ向けのオークションで、6月に開催される一般向けのオークションとは大きく異なります。一般向けのオークションはディナーやツアーなどワイン以外のイベントを含むものが多くありますが、こちらはワインのみ。このオークション専用に作られたもので、ラベルもすべてのワイナリーで共通のデザインのものを使うことや本数の制限などもあります。ワインは後日リリースされることになります。ワイナリーはワインをオークション用に寄付し、収益はナパヴァレー・ヴィントナーズによって使われます。



トップロットはサイモン・ファミリーの2024カベルネ・ソーヴィニヨンで60ボトルが6万ドルでした。
他の高額ロットには以下のものがあります。
$55,000 for 60 bottles of The Mascot 2024 Cabernet Sauvignon
$50,000 for 120 bottles of Quintessa 2023 Cabernet Sauvignon
$50,000 for 60 bottles of Hourglass 2023 Cabernet Sauvignon
$49,000 for 240 bottles of JennaMarise Wines/Robert Foley Vineyards 2023 Cabernet Sauvignon
$48,000 for 240 bottles of Robert Mondavi To Kalon 2023 red blend
$46,000 for 240 bottles of Duckhorn Vineyards Three Palm Vineyard 2023 red blend
$40,000 for 240 bottles of Davies/Diamond Creek/ Diamond Mountain/Dyer/Lokoya/ Wallis Damond Mountain Six 2023 Cabernet Sauvignon
$45,000 for 120 bottles of Grgich Hills Estate/Spottwoode Estate Vineyard and Winery 2023 Cabernet Sauvignon
$36,000 for 60 bottles of Darioush 2023 Cabernet Sauvignon
$30,000 for 120 bottles for Favia 2023 Cabernet Sauvignon
$35,000 for 120 bottles of Raymond Vineyards 2023 Cabernet Sauvignon
$35,000 for 250 bottles of Silver Oak 2023 Cabernet Sauvignon
$35,000 for 60 bottles of Shafer Vineyards 2023 Cabernet Sauvignon
$40,000 for 60 bottles of Arkenstone Estate Winery Godus 2023 Cabernet Sauvignon.
Date: 2025/0221 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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スタッグス・リープ・ワイン・セラーズが、創設者で2024年になくなったウォーレン・ウィニアルスキーがナパのクームズヴィルに保有していたアルカディア・ヴィンヤード(Arcadia Vineyard)を取得しました。

ウォーレン・ウィニアルスキーは2007年にスタッグス・リープ・ワイン・セラーズをアンティノリとワシントンのシャトー・サン・ミシェルに売却して引退しました。その際、アルカディア・ヴィンヤードだけは自身の畑として残しており、スタッグス・リープ・ワイン・セラーズはアルカディアのブドウを自社のワインに使っていました。

スタッグス・リープ・ワイン・セラーズの現オーナーであるアンティノリは「この購入によってブドウ畑が元の場所に戻り、スタッグス・リープ・ワイン・セラーズで造られる全てのワインが、100%自社畑で栽培されるという目標に近づくことができる」とコメントしています。
Date: 2025/0219 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ナパのスプリング・マウンテンにある名門ワイナリー「Newton Vineyard(ニュートン・ヴィンヤード)」がクローズすることが判明しました。ワイナリーのメーリングリスト・メンバーへのメールで明らかになりました。

ニュートンは2020年のグラス・ファイアーで大きな被害を受けました。ワイナリーや庭などが焼失したほか、74エーカーの畑も5エーカーを残して焼けてしまいました。下の写真は火事の前と後のものです。その後カリストガにテイスティングルームをオープンして、再起を狙っていましたが、親会社のLVMHがクローズを決めました。
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Newton

ニュートンの創設者であるピーター・ニュートンは1960年代から70年代の近代ナパ勃興期に活躍した人。1964年にカリストガにスターリング・ヴィンヤーズをオープンし、リック・フォーマンをワインメーカーに据えて高品質なワインを造りました。1977年にリックと共にニュートン・ヴィンヤードを創設。リックの退任後はジョン・コングスガードをワインメーカーとして採用し、当時は非常に珍しかったノンフィルターのシャルドネなどを作って有名ワイナリーになりました。今はコングスガードで、カリフォルニアトップクラスのシャルドネを造るジョン・コングスガードですが、そのワイン造りの原点はニュートンにあります。

ジョン・コングスガードの後はピーターの妻のスー・フアがワインメーカーになりました。かつてはシャネルのモデルであり、臨床・産業心理学の学位、さらには医学博士でもあり、母国である中国語のほか、育った英語、さらにフランス語もできます。Newtonのワイナリや庭園のデザインも手がけたという才人。

2001年にワイナリーをLVMHに売却。その後はオーガニック栽培への転換などを進めました。映画「サイドウェイ」の日本版でも重要な役割を果たしました。

高品質な「山カベ」の代表的な生産者でもあり、「ノンフィルター」で時代を築いたニュートンが失われてしまうのは残念なことです。

Date: 2025/0218 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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Varnum Vintners
オレゴンのヴァーナム・ヴィントナーズ(Varnum Vintners)が、オレゴンでは初となるノンアルコールのワインを発売しました。同ワイナリーは2024年にオレゴン初のノンアルコールワインを発売しています。

ヴァーナムはスピニング・コーンの技術を使って、フレーバーを保ったままアルコールを除去しています。ピノ・ノワールはオレゴンで一番広く栽培されている品種であり、ローアルコールやノンアルコールの重要性が高まる中でピノ・ノワールでのノンアルコールワインはオレゴンのワイン業界全体にとっても重要なカテゴリーになります。

価格は40ドル。これまで同社が出していたものではスパークリングの24ドルというのが一番高い設定でした。価格的にも「攻めた」ワインで、今後が注目されます。
Date: 2025/0216 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ブルゴーニュのドメーヌ・デュジャックの共同経営者兼ワインメーカーであるジェレミー・セイス氏がナパのカベルネ・ソーヴィニヨンのワイナリーに参画しています。畑はトレイルサイド・ヴィンヤード。ラザフォードの東側にあり、長年ハイツ・セラーにブドウを供給してきています。
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ハイツ・セラーのオーナーでもあるローレンス・ワイン・エステートのカールトン・マッコイ(ダラ・ヴァレのマヤさんの夫です)がジェレミーと2020年に始めたプロジェクトで、今月最初のワインがリリースされる予定です。「1960年代と1970年代のナパ・ヴァレーの栄光の時代へのオマージュであり、テロワール主導の熟成に値するスタイル」だと言います。
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マッコイがトレイルサイドのオーナーになったのが2019年。7種類ある複雑な土壌から、テロワールを大事にしてワインを造る醸造家が必要だと思い、それで選んだのがジェレミーだとのことです。

醸造においてはナパでは一般的でない全房発酵や、果房を沈める手法などを取り入れているとか。

ちなみにジェレミーの妻はダイアナ・スノーデン・セイス。ナパのスノーデンやアッシュ・アンド・ダイヤモンズでワインメーカーをしています。
Date: 2025/0214 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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カリフォルニア州がCDFA(カリフォルニア州食品農業局)長官への勧告という形で、再生可能農業(Regenerative Agricuture)を定義しました(CDFA - Defining Regenerative Agriculture for State Policies and Programs)。

達成すべき具体的な目標としては以下の8点が挙げられています。
1. 土壌の健康、生物多様性、土壌有機物の向上
 「健康な土壌プログラム
2. 土壌の健康、炭素隔離、温室効果ガス削減のための保全的農業の拡大
 「米国農務省自然資源保全局(USDA NRCS)の保全実践基準」 に基づく施策
3. 持続可能な害虫管理(IPM)の推進
 「カリフォルニア州の持続可能な害虫管理加速化ロードマップ
 「カリフォルニア大学統合害虫管理プログラム(UC IPM)
 「USDA NRCSの害虫管理保全システム」
4. 農業における動物の福祉とケアの確保
 「動物ケアプログラム(Animal Care Program)
5. 健康的な地域社会の構築
 「農業ビジョン(Ag Vision)」
6. 文化的・精神的伝統の保護と先住民主導の土地管理の支援
7. 他の目標への悪影響の最小化
8. 農家や牧場経営者の経済的持続可能性の確保

また、地域特性や文化に応じて以下の3点を考慮して適用していきます。
・利用可能な最善の科学と実践に基づくこと
・有機農業および伝統的な生態学的知識(TEK: Traditional Ecological Knowledge)を尊重すること
・持続可能な農業システムのための適切な選択肢を確保すること
この定義は、再生可能農業の認証などに即座につながるものではありません。今後の議論の礎になるようなものだと考えるのがよさそうです。

ただ、有機農業について、必須の条件としなかったことには残念だという声もすでに上がってきています。一方で、現在カリフォルニアの有機農業の比率が4%程度であり、それを必須にすると、ほとんどの生産者を置いてきぼりにしてしまって実効力がなくなるので仕方がないという考えもあるようです。

ROC(Regenerative Organic Certified)との関係がどうなっていくのかも定かではありません。

いろいろ議論があるところではありますが、まずは再生可能農業という言葉をより一般に通じるようにする道筋の一つとしては大きな意味があるのではないかと、個人的には感じています。
Date: 2025/0213 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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カリフォルニアの2024年のブドウ収穫の暫定レポートが公表されました(Lightest Crush in 20 Years: California Crushed 2.84 Million Tons of Wine Grapes in 2024)。

2024年にカリフォルニア州で収穫された(正確には収穫して圧搾された)ワイン用ブドウは284万トン。2023年の370万トンから23%減少しました。2004年に276万トンのワイン用ブドウが圧搾されて以来の少なさでした。

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ブドウの価格もわずかですが下がっています。ただ、需要と供給の兼ね合いからすると、もう1段階下がってもおかしくない状況でした。それほど価格が下がらなかったのは、シーズン前から価格を決めて造るケースが意外と多いからだそうです、

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品種別の収穫量を見ると、1位はシャルドネで2位がカベルネ・ソーヴィニョン。これまでと大きな変化はみられません。

ブドウ余りの時代で、2024年の低収量は生産調整という意味では良かったという意見もあるようです。
ちなみに、低価格ワインで知られるブロンコはセントラル・ヴァレーのスタニスラス郡で81人のレイオフを発表しています。セントラルヴァレーの作り手が一番大きな影響を受けています。
Date: 2025/0210 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ナパには引く手あまたの著名ワインメーカーが数多くいますが、トップの一人と目されているのがブノワ・トゥケ。レアム(Realm)では10回を超えるパーカー100点を獲得しており、フィリップ・メルカ、トーマス・リヴァース・ブラウンと並んで「フェアレスト・クリーチャー」というトップワインメーカーを並べたプロジェクトにも選ばれています。

ナパのトップ・ワインメーカー3人の競演!? 「夢の新プロジェクト」発進

そのブノワ・トゥケが来日し、セミナーで彼個人のプロジェクトであるティーター・トッター(Teeter-Totter)とフェマン(Fait-Main)のワインを試飲しました。

ブノワ・トゥケはフランス・リヨンの出身。ボルドー大学で醸造を学び、ミシェル・ロランと知り合います。そしてミシェル・ロランから派遣されて研修として米国に来ました。アンディ・エリクソンの下でスクリーミング・イーグルやダラ・ヴァレ、オーヴィッド、ダンシング・ヘアといったワイナリーで働きます。その後、レアムのワインメーカーになり、100点ワインを輩出して注目を集めました。レアムでは現在は共同オーナーになっています。

ティーター・トッターはシーソーの意味。ラベルにはシーソーに乗ったネズミと象(ネズミの方が下がっている)という絵柄が描かれています。「シーソーに乗った小さなねずみ(ブノワが造るワイン)が、巨象(巨匠のワイン)に立ち向かう」という意味を込めているのだとか。リーズナブルな価格で高品質なワインを造ることを目的にしています。トーマス・リヴァース・ブラウンが作るダブルダイヤモンドあたりと、コンセプトや価格帯的には共通すると言っていいでしょう。2012年にブランドを始めたときは100ケースほどでしたが、現在は6000ケースほどにまで成長しています。

ティーター・トッターのシャルドネ ナパ・ヴァレー2022(7000円)から試飲しました。Beckstofferがカーネロスに持っている畑のブドウを使っています。おそらく下の「Carneros Creek Vineyard」です。ニュートンもここの単一畑を作っています。場所はハドソンとハイドのちょうど中間くらい。単一畑のワインですが、畑名を名乗っていないのは契約の関係だそう。単一畑を名乗る場合、契約が高くなるので、ワインを少しでも安くするために、「ナパ・ヴァレー」としています。
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半分新樽、半分はステンレスタンクで発酵、100%マロラクティック発酵しています。シャルドネのワイン造りではミネラル感や低アルコール、酸、バランスを大事にしているそうです。

ミネラル感強く、ほのかなかんきつにピーチのフレーバー。酸高くエレガントなシャルドネです。ナパヴァレーとは言われなければ気がつかないかも。サンタ・クルーズ・マウンテンズあたりのシャルドネのイメージに近いです。

次はカベルネ・ソーヴィニョン ナパヴァレー2021(12000円)。こちらは2021年からラザフォードにあるBeckstoffer Georges III(ジョージズ・ザ・サード)の畑のカベルネ・ソーヴィニヨンを使っています。この畑はナパ開発の初期に大地主だったジョージ・ヨーントが娘婿のトーマス・ラザフォードに与えた土地の一部。最初の植樹は19世紀にさかのぼります。その後、ボーリュー・ヴィンヤード(BV)を経てアンディ・ベクストファーの畑になりました。銘醸畑の一つで、300エーカーとかなり広く、多くのワイナリーがここからブドウを調達しています。シャルドネ同様、ワインには畑名は記されていません。
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ブノワ・トゥケが師匠であるミシェル・ロランから学んだことの一つとして、カベルネ・ソーヴィニョンに地元のブドウ、例えば南アフリカであればピノタージュ、を少しブレンドする、ということがあります。そこで、このワインもカベルネ・ソーヴィニョンのほか、ジンファンデル、プティ・シラー、シャルボノをそれぞれ5%ほど入れています。カベルネ・ソーヴィニョン以外の3品種はカリストガからでシャルボノは、トファネリ(ターリーなどが使用)の畑です。樹齢40年で無灌漑栽培されています。

なお、シャルボノについては、こちらをご覧ください:絶滅寸前、シャルボノに惹かれる人たち

プラムやチョコレート、黒鉛。香り高くスパイシー。パワフルで美味しい。酸もあり、濃密な味わいとスパイスが心地よい。これはコスパ高いと思います。

フェ・マンに移ります。「フェ・マン」はフランス語で手造りの意味だとのこと。ラベルには出身地であるリヨンの紋章が描かれています。彼がフランスからナパに来たときに、ナパで作られている品種はボルドーに近いけれど、ナパの地域の特性はむしろブルゴーニュ的だと感じたそうです。さまざまなテロワールが存在するというのがその理由で、テロワールを表現する「単一ヴィンテージ、単一畑」のワインを造るブランドがフェ・マンとなります。

今回は2021年のワインからナパヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨン(2万円)、ベクストファー・ミズーリ・ホッパー カベルネ・ソーヴィニョン(3万5000円)、ベクストファー・ラス・ピエドラス カベルネ・ソーヴィニョン(4万8000円)。そして2016年のベクストファー・ラス・ピエドラス カベルネ・ソーヴィニョンです。

ナパヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンは2021年が最初のヴィンテージ。これだけは複数畑のブレンドです。単一畑として出しているベクストファー ラス・ピエドラス・ヴィンヤード(セント・ヘレナ)、ベクストファーミズーリ・ホッパー・ヴィンヤード(オークヴィル西側)、ティエラ・ロハ・ヴィンヤード(オークヴィル東側)の3つの畑を中心に、今後単一畑として候補になっている畑のブドウをブレンドしています。

ちなみに、ベクストファー・ラス・ピエドラスの、このワインに使っているブロックは、元々シュレーダーが使っていたところで、シュレーダーがコンステレーションの畑だけを使うことになって手放したところだとか。現在は植え替え中で樹齢が若いために、こちらに入れているそうです。(ブノワ・トゥケさん、結構こんなことまで話していいのということも話してくれます)

濃厚でリッチです。ブルーベリーなど青系果実を強く感じます。適度に酸も感じ、濃厚ですがバランスは悪くないです。

次はベクストファー・ミズーリ・ホッパーの2021年です。ミズーリ・ホッパーはオークヴィルの西側、有名なヴァイン・ヒル・ランチやドミナスのユリシーズの畑に隣接しています。沖積扇状地で表土が深く、樹勢が強くなるそうです。
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顕著なカシスの香りに、とてもなめらかなタンニン。まさにト・カロンなどオークヴィルの西側の味わいです。リッチでふくよか、ナパのカベルネのお手本と言っていいでしょう。

次はベクストファー・ラス・ピエドラスの2021年。ラス・ピエドラスはセント・ヘレナの西側。これも有名なベクストファー・ドクター・クレーンの少し西にいったところにある畑です。かなり山に近いところで、畑に石がごろごろしています。これが「ラス・ピエドラス」(スペイン語の小石)の語源となっています。
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この畑ではライヤー(Lyre)という、仕立ての方法を取っています。写真のように、枝をU字型に誘引して、その下にブドウの実が付くようにします。エアフローがいいのとブドウに日があたりすぎないというメリットがあります。ただ、これが最適な仕立てというわけではなく、今では他の仕立てでよりよい効果が得られる方法もあるそうですが、ここは歴史的にこの仕立てを続けています。

オークヴィルよりも温暖なセント・ヘレナですが、ワインの味わいはこちらの方が引き締まった印象です。赤果実もあり酸とタンニンがしっかりしています。この畑はカベルネ・ソーヴィニョンのクローンが4と337の2種類ありますが、2021年は337を多く使っていることもこのエレガントな印象につながっているようです。

最後に、ヴィンテージ違いで2016年のラス・ピエドラスです。やや固い印象の2021年に対して、2016年はタンニンが多少ほぐれて柔らかさが出てきていますが、まだまだ強いワインです。第3のアロマは感じません。この年は一番味わいが強いと言われているクローン4を多く使っており、それも味わいにつながっています。

ところで、今回は2021年の試飲でしたが、次の2022年は9月10日前後の熱波で難しいヴィンテージだったと言われています。40℃を超えるような熱波が一週間ほども続き、酸が落ちてしまったり、ブドウが「閉じた」状態になってしまったりしました。この熱波の前に収穫したか、熱波の後に収穫したかで、ワインの性格も大きく変わります。フェ・マンは熱波の前に収穫できたそうです。このほか、ハーランやダラ・ヴァレなどのプレミアムなワイナリーも早く摘んだとか。

9月上旬というのは熱波が起こりやすい時期なので、その前に収穫することが今後より大事になり、早く収穫できる畑を今後は選んでいきたいとのこと。ただ、これは早く摘めばいいというほど簡単な話ではありません。その時期に摘んでもフェノリックなどがちゃんと成熟していることが必要です。そのために、無灌漑での栽培や、早い時期に剪定することなどが必要で、栽培により手間をかけなければいけません。

ここまで説明してきたように、ティーター・トッターにしても、フェ・マンにしてもベクストファーの畑のブドウを多く使っています。引く手あまたの栽培家ですが、どうしてこれだけブドウの提供を受けられるようになったのか、質問してみました。

レアムの創設者がアンディ・ベクストファーと仲が良かったというのが最初にあり、またブノワ・トゥケが作るワインの高品質であることが加わっていい関係を築いたとのことでした。長年の信頼で培ったきずながあり、いまは欲しければもっともらうことも可能だとのこと。

最後に、今回の試飲では登場しなかったティエラ・ロハの畑について聞きました。この畑は2023年にナパにいったときに、訪問しています(ナパツアー4日目その1ーー畑作業をむちゃくちゃ楽しむ)。オークヴィルの東側の斜面の畑で、ダラ・ヴァッレの畑の下にあります。
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ブノワ・トゥケによると、オーナーのリンダさんは子供をかわいがるようにブドウを扱っており、その精神と考えが彼とも合っているそうです。2021年から作り始めたワインですが、長く関係を続けていきたいとのこと。畑はヴァカ山脈系の火山性土壌で、色が赤く、ワインは力強く、ミネラル感を強く感じるそうです。


Date: 2025/0207 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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シリコンバレー・バンクによるワイン業界の分析レポートが発表されました。2024年にはワイナリーのテイスティングルーム経由での販売などDtC(Direct-to-Consumer)のチャネルが回復することが期待されていましたが、実際には低迷を続けており、需要低迷への打開策はあまり見えていないのが現状です。

SVB
上のグラフはプレミアムなワイナリーの成長率を2000年からプロっとしたものですが、コロナ禍での一時的な伸びはあったものの、成長率は低落傾向にあり、マイナスが常態化するのも遠い未来のことではなさそうです。

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アンケート調査から昨年がいい年だったのか悪かったのかを集計したものを、この3年間で比較したグラフです。グラフの右の方ほど、前年が良かったことを示しますが、2022年は「A good year」から右が70%で「A disappointing year」から左が18%。それに対して昨年は「A good year」から右が29%で「A disappointing year」から左が50%。ネガティブな評価が上回っています。

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実際のワイン消費量を見ても2020年はコロナ禍の巣ごもり需要で増えましたが、2021年以降はマイナス成長に陥っています。

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ワイン消費が伸び悩む大きな理由が50代以下でのワイン人気の低さです。20代、30代、40代、50代、60代、70代のワインとビール、スピリッツその他の好みを聞いた結果として若年層ほど、スピリッツや「その他」の比率が高くなっています。健康志向でアルコールそのものを飲まなかったり、金銭的余裕がなくて比較的高額なワインに触手が伸びなかったりと、理由はさまざまですが、ともかく若い人のワイン消費の低迷がワイン全体に響いているのは確かです。若年層のビールやスピリッツ市場との競争に勝つため、新たなマーケティング戦略を構築する必要があると見られています。アルコールの健康への影響についても、厳しいガイドラインが今年発動されると見られており、低アルコールやノンアルコールワインの開発で、新たな市場を開拓する必要も出てくるでしょう。

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アンケート結果では59%がオーバーサプライ状態であるとしています。現在の需要に応じた生産調整は必須の状況です。2024年のブドウの生産量は2008年以来の少なさでしたが、それでもオーバーサプライは続きます。2025年は市中在庫の調整が進むと見られていますが、2026年までずれこむという見方もあります。沿岸の高級ワインを算出するエリアではまだ状況は悪くありませんが、内陸の大量生産エリアでは売りに出ているブドウ畑にほとんど買い手がいないと言われています。どの産地においても、ブドウ価格は下がる可能性が高いです。

このレポートも以前は100ページを超える大著でしたが、2023年のシリコンバレー・バンク破綻を経て、昨年は60ページ、今年は40ページとだいぶ薄くなってしまいました。目を通すのはだいぶ楽になりましたが、読み応えというところでは少しさびしさを感じます。
Date: 2025/0206 Category: おすすめワイン
Posted by: Andy
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カレラ(Calera)にとって日本市場は大のお得意先。以前聞いたときは生産量の6割もが日本に来ているとのことでした。米国でカレラが評価される前から日本では人気があったため、昔は日本人気を揶揄されることもあったほど。

そんなこともあり、カレラは日本限定のキュベを従来から作っていました。セントラル・コーストのワインに一部自社畑のワインを加えるというのが常道です。輸入元がエノテカに変わってからは、しばらくなかったのですが、このほど「ジェンセン・レガシー・キュベ」のシャルドネおよびピノ・ノワールが入ってきています。

ジェンセン・レガシー・キュヴェ・シャルドネ
ジェンセン・レガシー・キュヴェ・ピノ・ノワール

ただ、価格はシャルドネが6600円、ピノ・ノワールが7700円と、いずれもセントラル・コーストの価格+1000円とやや高です。

個人的にはピノ・ノワールでも4000円台で買える、JALUX向けだった「ジョシュ・ジェンセン・セレクション」を買うことを今はお薦めします。




Date: 2025/0205 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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中川ワインの試飲会から美味しかったワインを報告します。実はスクリーミング・イーグルと同じ日で、行く時間が遅かったため、いくつかのワインは飲み損ねました。


ルマ・デ・カトレアのソーヴィニヨン・ブラン(4800円)。服雑味があり、ワンランク上の味わい。


サンタ・クルーズ・マウンテンズのマウント・エデンが南の冷涼なエドナ・ヴァレーの畑で作るシャルドネ(4800円)。うま味ある味わいはサンタ・クルーズのものと共通性があるかもしれません。コスパ高い。


右はメリーヴェールのプレミアムラインであるプロファイルのシャルドネ「シルエット」(15000円)。酸がきれいでおいしい。左はトアー(Tor)のシャルドネ・キュヴェ・トルチアーナ(19000円)。うま味あり、バランスいい。すべてが高次元ですばらしい。シャルドネ講座で出したかった。




ホーニッグのソーヴィニヨン・ブラン(4000円)。カリフォルニアのソーヴィニヨン・ブランのお手本的ワインだと思います。


期せずしてソーヴィニヨン・ブランが並びました。ナパ・ハイランズのソーヴィニヨン・ブランは初輸入(4800円)。ナパらしいリッチな味わいがナパ・ハイランズらしくていいです。写真省きますが、カベルネもいつもながら安定した仕上がり。


ダックホーンのフラッグシップ・メルロー スリーパームス・ヴィンヤード2021です(15500円)。リッチでチョコレートの風味。


ダックホーンのカベルネ系のフラッグシップ「ディスカッション」(20000円)。リッチな味わい。非常にいいです。


中村倫久さんのノリアのピノ・ノワールは3種出ていましたが、一つは試飲できず、シャローンAVAのブロッソー(9000円)と、ロシアン・リバー・ヴァレーのウミノ・ヴィンヤード(9000円)の2本を試飲しました。これがどちらも素晴らしい。二つの個性も現れ、非常によくできています。


マックマニスの赤はメルローとプティ・シラーとジンファンデルが出ていました(2200円)。この中で一番良かったのがジンファンデル。ジンファンデルらしさが出ています。


ハドソンの「フェニックス」。メルロー中心のブレンドです(14500円)。リッチでこくのある味わいに。


ナパのシニョレッロが作るコスパ系ブランド「トリム」のカベルネ・ソーヴィニヨン(3000円)。2021年はローダイの畑を使っています。リッチでバランスもよく、3000円とは思えないレベルです。


初輸入のベッドロックのカベルネ・ソーヴィニヨン ソノマ(6500円)。バランスが素晴らしい。この価格とは思えないレベルのワイン。
Date: 2025/0204 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ナパのプレミアムなカベルネ・ソーヴィニヨンの中でも、ミステリアスな存在なのがスクリーミング・イーグルです。現在の市価が安くて50万円台。80万円台や90万円台で売っている店も珍しくなく、高額ワインの多いナパの中でもその存在は抜きんでています(現在はゴースト・ホースの方が価格が上回りますが、こちらはまだ知名度は低いと思います)。生産量も1000ケース足らずと非常に少なく、実際に飲んだという話もほとんど聞いたことがありません。



セカンド・ワインに当たる「ザ・フライト」(以前の名称はセカンド・フライト)にしても、輸入元の希望小売価格は最新ヴィンテージで税込み31万9000円と、ハーラン・エステートの35万円に迫るものがあります。

今回、スクリーミング・イーグルのエステート・マネージャーで、サンタ・バーバラのヒルトやホナタなども管轄するアルマン・ド・メグレ氏が来日し、ザ・フライトを垂直で試飲しながら、話をうかがいました。また、スクリーミング・イーグルとソーヴィニヨン・ブランについても1ヴィンテージずついただきました。アルマン氏にとっても、このように「ザ・フライト」を垂直試飲するのは初めてとのこと。「過去を振り返ることはあまりない」そうです。

ザ・フライトをセカンド・ワインと便宜上書きましたが、実際には別のワインと言った方がいいのかもしれません。カベルネ・ソーヴィニョンが主体のスクリーミング・イーグルに対して、ザ・フライトはメルローが6割くらい入るのが通例です。一般的にはメルローの比率を上げるのは、あまり熟成させなくても飲みやすいようにする、というのが目的ですが、ザ・フライトの場合はメルローだから飲みやすい、というのでもなさそうです。ちなみに、当初は「セカンド・フライト」としていたのを2015年から「ザ・フライト」と変えたのも、ワインを実際に飲んだ人から「これはセカンドではない」というフィードバックを得たからだそうです。実は生産量もスクリーミング・イーグルの方がやや多くて500~900ケース。ザ・フライトは450~800ケースです。また2022年は熱波で酸が落ちた影響でザ・フライトは作りませんでした。

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スクリーミング・イーグルの畑はオークヴィルの東側。シルヴァラード・トレイルのすぐ西になります。シルヴァラード・トレイルから東はかなりの斜面になります。ジョセフ・フェルプスのバッカスやダラ・ヴァッレの畑など、距離的には近いですが、特にダラ・ヴァッレの畑は丘一つ上になり、下からは見えません。
また、南側に標高140mほどの丘があります。畑の標高が40数メートルですから100mくらい、畑より高いわけです。このように、ナパの東側のベンチランドの中でもスクリーミング・イーグルの畑はちょっとくぼんだところにあり、周囲よりも少し涼しいという特徴があるそうです。例えば、収穫時のpHは周辺の畑では4.0程度とかなり高くなりますが、スクリーミング・イーグルでは3.4~3.5にとどまります。

スクリーミング・イーグルの創設者はジーン・フィリップス。不動産業で成功し、ナパのオークヴィルに土地を購入したのが1986年。当初はブドウを他のワイナリーに卸していましたが、カベルネ・ソーヴィニョンのブロックの品質が高いことに気付いてワインを造り始め、ロバート・パーカーに認められて有名ワイナリーになりました。

ジーン・フィリップスは2006年にスクリーミング・イーグルを売却、実業家のスタン・クロエンケが購入しましたが、引き継ぎ時にはワイナリーのカギを渡されただけで、畑やワインについては何も教えてもらわなかったとのこと。一から学んでいくことになりました。そこで気付いたことの一つがここのメルローの秀逸さでした。ただ、メルローの栽培もカベルネ・ソーヴィニョンの栽培も同じようにされていたので、メルローは葉を多く残すなど、メルローに合った栽培をすることでさらに品質も上がっていきました。このメルローを中心とした2つのブロックがザ・フライトのコアになっています。なお、45エーカーの畑のうち23エーカーが1980年代に植樹したものので、現在はそれだけを使っています。18エーカーは2006年から2007年に植樹したもので、これまではブレンドに入れていませんが、そろそろ使い始めるかもしれないとのこと。あと、2014~16年に植樹した数ブロックがあります。

2010年には醸造設備を一新し、ブロックごとに醸造できるようになりました。畑は45のブロックに分けられており、栽培も醸造もそれぞれにあった形で行っています。1ブロックでも別醸造のものもあり、合計で150パッチに分けられています。2月初頭に前年のブレンドを行います。

さて、2012年に2007~2010年の「セカンド・フライト」をセットでリリースしたのが、このワインのスタートとなりました。スクリーミング・イーグ0ルは「名前に恥じない究極の品質を目指しており、そのために謙虚であり続けないといけないし、ナンバーワンを続けなければいけない」としているのに対し、ザ・フライトの方は「世界で一番おいしいメルロー主体のワイン」を目指しています。

なお、サンタ・バーバラのThe HiltとJonataも同様に世界最高のシャルドネやピノ・ノワール、シラーを目指しています。シャルドネは明らかにそのポテンシャルがありシラーもニューワールドのシラーでは最高レベルのポテンシャルがあると自負しています。ピノ・ノワールはまだ苦戦していますが、目標はそこに置いています。

こういった世界最高を目指す精神の現れはコルクにも「Fly High and Proud」として描かれています。


スクリーミング・イーグルでは栽培はオーガニックですが、特にオーガニックであることをうたってはいません。マーケティング的に使われるのは本意ではないとのこと。ビオディナミには従っていません。ただ、月や太陽が栽培において重要だという意味ではその精神に共感しているところもあるようです。

試飲に移ります。今回は2012、2014、2015、2016、2019、2020の6ヴィンテージです。2015と2016はWine to Styleの在庫から、残りの4本はワイナリーからマグナムで持参いただいています。

ナパの天候において重要なのは気温と夜間の冷涼さ、生育期間の長さであり、「敵」になるのは熱波や干ばつです。2012年は比較的暖かいヴィンテージ。雨もやや多い年です。

以下にコメントを記しますが、相対的にどれがいいと思ったかを示すために、便宜的に得点を入れます。ほかの回と比較するというより、今回のワインの比較用と思ってください。

2012年はカシスの香りに、ちょっとミンティな風味、花の香り。酸高くタンニン強い。そこそこ年月を経ているにもかかわらず、果実味が強く熟成によるアロマはまだほとんどでてきていません。96
2014年は2012年よりも酸が低く、ブルーベリーの香りが顕著。ストラクチャーのしっかりしたワイン。94
2015年はタンニンがしっかり。果実の味わいは2012年と2014年の中間くらい。93
2016年は赤系果実とブルーベリーの香り。これもタンニンは強く、やや閉じ気味に感じられました。95
2019年もちょっと閉じている感じがありましたが、パワフルで酸高くポテンシャルを感じます。赤系と黒系果実も豊か。97
2020年はバランスよく、酸高く赤果実も強い。タンニンも強い。96

ちなみに、同席した森覚さんはマグナムの12、14はメルローの特徴がまだあまりでてきておらず、750mlの15、16は開いていたとおっしゃっていました。また15年以降の最近のヴィンテージの方がメルローらしさがより出てきているとおっしゃっていました。赤系の果実を感じたのは最近のヴィンテージの方が多かったので、そのあたりがメルローらしいところなのかもしれません(メルロー難しくてよくわかりません)。

総じて言えることは、パワフルでストラクチャーがありタンニンも強い傾向にあること。飲み頃がいつになるのか聞いてみたところ「わからない」とのこと。私の感覚では2012年のものでもまだ10年くらいは寝かせた方がポテンシャルを発揮するような気がしました。メルロー中心のセカンドワインというと、早飲みタイプなのかと想像してしまいがちですが、ザ・フライトは早飲みワインではなく20年は熟成できるし、する価値があるワインだと思います。

アルマン氏はザ・フライトで感じてほしいこととして「メルローの個性と精密性。口に含んだときにアタックがあり、酸も感じられ、ミッドパレットにしっかりした果実味があり、余韻にちょっと田舎っぽさを含みながらも骨格とエレガンスがある」というところだと語っていました。

これまで、Wine to Styleの試飲会でザ・フライトを数回試飲していますが、あわただしい試飲会では1つのワインにかけられるのは数秒。そこで価値を見極めるのは難しく、これまで試飲会で良かったワインとして紹介したことはなかったと思います。今回じっくり試飲して、やっとそのスケールの大きさが理解できた感じがしました。

ところで、スクリーミング・イーグルの畑の中でメルローは東の方に多く植えられています。東の方は西向き斜面になるので、より太陽をよく浴びます。一般的にはメルローは比較的冷涼なところを好むと言われているので、西の方に植えるのが常道だと思いますが、スクリーミング・イーグルではそうはなっていません。

前述のように、スクリーミング・イーグルやザ・フライトに現在使っているのは1980年代に創設者のジーン・フィリップスが植えたブドウです。つまり、この選択をしたのもジーン・フィリップスです。アルマン氏に言わせると彼女は素晴らしいガーデナーだとのことで、彼女の直観によって植えられたのだそうです。ブロックの一つは過去に小川が流れていたところで、水はけ良く石がごろごろしているということで、これも粘土質などやや水を保持する土壌を好むといわれているメルロー向き土壌とは異なっています。このような理屈ではないところにスクリーミング・イーグルの魅力の一つがあるのかもしれません。

ザ・フライトの垂直試飲の後は、食事を取りながらソーヴィニヨン・ブランとスクリーミング・イーグルをいただきました。

ソーヴィニヨン・ブランは、一時期はカベルネ・ソーヴィニョンよりも高く取引されていたほどのレアワイン(Wine-Searcherのデータでは、今はカベルネ・ソーヴィニョンよりちょっと安いようです)。日本では100万円を超える値付けも珍しくありません。

ちなみに生産量は当初は20~50ケース。2016年以降は100~125ケースで、2019年は150ケースと過去最多だったとのこと。

ソーヴィニヨン・ブランを始めたのは試飲やメーカーズ・ディナーのときに白ワインも欲しいからだそうです。オーナーが代わった2006年に植樹して2010年からワインを造っています。この2010年はお世辞にもいいできではなかったそうですが、翌年以降は世に出せる品質になっていきました。最初は市販するつもりはなかったそうですが、レベルが上がったことで「Screaming Eagle」の名を冠することにしました。畑は1ヘクタールもなく、かつて川が流れていた少し粘土質の土壌だそうです。クローンはソーヴィニヨン・ムスケと、2つのソーヴィニヨン・ブランのクローンを使っています。

収穫は何度かに分けて行います。果実の色で収穫時期を決めますが、あえてまだ緑のものを含めることもあるそうです。収穫した果実は除梗してプレス。500~600リットルのフレンチオークの樽とステンレスの樽で発酵し、バトナージュもするそうです。10カ月樽熟成して、タンクに移して2~4カ月落ち着かせてからボトル詰めします。果実の美しさを残し、酸が出すぎないようにしているとのこと。収穫時のpHは2.9~3.2と非常に低く、酸の管理は一番難しいとのことです。MLFはヴィンテージによって行ったり行わなかったりします。

2020年のソーヴィニヨン・ブランを飲みました。第一印象は香りの高さでソーヴィニヨン・ムスケらしさがよく出ています。少し柑橘もありますが、メロンのような熟した果実の香りで、酸はやや低めに感じます。きれいでほのかな樽香。値段のことはさておき、トップクラスのソーヴィニヨン・ブランの一つであることは間違いありません。

さて、最後はいよいよスクリーミング・イーグル2021です。Vinousのアントニオ・ガッローニは100点を付けています。

青系と黒系の果実の香り。シルキーなタンニンで、スムーズ、丸い味わい。一方で酸も高くストラクチャーもあり、エネルギーを秘めた感じがします。ザ・フライトと比べて親しみやすく、飲みやすいワインですが、おそらく熟成によっても魅力が出てくるでしょう。98。

スクリーミング・イーグルの方が、ザ・フライトよりも飲み方を問わないように感じました。バーサタイルなワインという印象です。1ヴィンテージしか飲んでいないので、あくまでもこのワインだけの印象ではありますが。

スクリーミング・イーグルというとメーリング・リストに入った数少ない人しか買えないワインというイメージがありますが、実際にはメーリング・リストで売られているのは6割程度で、輸出分も3割くらいあるそうです(残りはごくわずかな米国内の流通)。メーリング・リストでごく限られた顧客だけが飲めるワインであるよりも、高級ホテルやレストランなどで、世界のトップワインと並んで飲んでもらうワインであることを重視したいとのことでした。なお、メーリング・リストは登録している人が亡くなっても、ほとんどの場合子供が親の名義で購入を続けるので、ほとんど空きは出てこないとのこと。

最後にワインメーカーのニック・ギスラソンについて伺いました。20代という若さでワインメーカーに抜擢されたニックですが、そのエピソードについて聞いてみました。

ニックはワインメーカーになる前、2010年からワイナリーで働き始めていました。2010年の収穫や醸造が一段落した12月に、それまでのワインメーカーだったアンディ・エリクソンが退任することになりました。退任の理由はアンディ自身が「スクリーミング・イーグルにはフルタイムのワインメーカーが必要だ」と考えたたmです。アルマン氏はその後4カ月で志望者20~25人とインタビューしましたが、エゴが強かったり、ワインのレジュメが決まっていて合わせる気がない人が多かったり、自分の履歴書に1行加えたいだけの人だったりと適任者ははなかなか見つかりませんでした。そのときにニックが「自分ではだめか」と聞いてきたそうです。
若いしどうだろうかと思ったのですが、ニックは「6カ月くれたら自分がワインメーカーとしてふさわしいことを証明する」と言い、彼を見ることにしました。
それで採用を中断したのですが。彼の働きぶりと才能が素晴らしく、年齢は関係ないがわかり、2011年に正式にワインメーカーとなりました。ただ最初の5年間は見た目が若すぎるので、雑誌のインタビューなど表には出さなかったそうです。

ニックは花火師として日本に来たことがあり、また今ではビール醸造も行っていますが、そのように多趣味なところも評価しているそうです。一つのことにのめり込むとほかが見えなくなるからで、奥さんと子供、花火師、ビールが彼にあるのがいいところだそうです。またワインと花火は「サプライズな表現」が大事といったところに共通点があると考えており、彼が作るスクリーミング・イーグルだからこそ、表現が豊かでサプライズの要素があるのだとか。

今回のワインだけでスクリーミング・イーグルが分かったなどとは微塵も思いませんが、貴重な体験ができたこと、ワインの一端にでも触れることができたことは大変勉強になりました。また、これまで真の価値があまりわからなかったザ・フライトも素晴らしいワインであることがわかり、非常に魅力を感じるようになりました。参加させていただいたWine to Styleさん、またご一緒いただいた皆様ありがとうございました。

最後の最後に、長くなったので紹介を省いてしまいましたが、マンダリンオリエンタル東京の中華も素晴らしく美味しかったです。点心とソーヴィニヨン・ブラン、スペアリブとスクリーミング・イーグルなど、素晴らしい組み合わせでした。




Date: 2025/0204 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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米国のトランプ大統領がカナダからの輸入品に25%の関税を課すと発表し、カナダ政府は報復として米国製品に25%の関税を課すことを表明しました。これに呼応して、オンタリオ州やブリティッシュ・コロンビア州では米国産や米国の共和党の強い州で作られたアルコール製品を店の棚から撤去するといったことも表明されています。

こういった状況についてカリフォルニアワイン協会のロバート・P・コッホ代表が声明を発表しています。

「カナダは米国ワインにとって最も重要な輸出市場であり、小売売上高は年間11億ドルを超えています。ワインは米国で最も付加価値の高い農産物輸出品の一つであるため、カナダ市場へのアクセスが失われれば、米国のワイン業界全体が打撃を受けます。私たちのワイナリーは、カナダ全土で数十年かけて市場シェアとブランドロイヤルティを築いてきました。今回の措置は、これらすべてを危険にさらします。さらに、すべてのアルコール飲料は現在市場で前例のない課題に直面しており、今回の関税と潜在的な製品撤去は、その影響を吸収するのが特に難しい状況です。私たちは、両政府が協力してこの紛争をできるだけ早く解決し、経済的損害を最小限に抑えるよう求めます」

米国のワイン業界は、長年ワインを貿易論争の道具にするべきではないと主張してきています。カリフォルニアワイン協会は、市場を問わず、全ての貿易報復リストからワインを除外することを強く主張しています。