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Date: 2025/0329 Category: 業界ニュース
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サンタ・クルーズ・マウンテンズのマウント・エデンのオーナーであるジェフリー・パターソンさんが12年ぶりに来日し、セミナーを行いました。
前回の記事:サンタ・クルーズ・マウンテンズのテロワールを表現したMount Edenのワイン

サンタ・クルーズ・マウンテンズは、カリフォルニアの数あるAVAの中でも、非常に個性的なところであり、実は私の「推しAVA」の一つでもあります。策定されたのは1981年。カリフォルニア初のAVAであるナパ・ヴァレーと同じ年ですが、順番でいうとカリフォルニアで6番目。ソノマ・ヴァレー、マクドウェル・ヴァレー(メンドシーノ)と同じ日に策定されています。

何が個性的かというと、AVAの境界が標高で定められた初めてのAVAであるということ、山地のAVAで面積はナパの1.5倍くらいありながら、ブドウ畑はナパの30分の1にも満たない、ほんのわずかしかないということ、AVAの中でも場所によって気候などが大きく異なること、域内をサン・アンドレアス断層が横切っているため、土壌が極めて複雑なこと、基本的には冷涼な産地でありながら、カベルネ・ソーヴィニヨンでもトップクラスのワインが作られているということ、地域的にはセントラル・コーストに含まれているのですが、セントラル・コーストAVAからは特別に除外されていること……そのつかまえどころのなさから、ヴィナスのアントニオ・ガッローニは「カメレオンのようだ」と評しています。

有名なワイナリーとして、まず名前が挙がるのは、リッジ(Ridge)です。サンタ・クルーズ・マウンテンズの畑「モンテベッロ」はカリフォルニアきっての銘醸畑であり、トップクラスのカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなどが作られています。リッジというとジンファンデルも有名ですがジンファンデルの多くはソノマの畑を使っています。モンテベッロにもジンファンデルがありますが、かなりレアです。

このほか近年注目されているのはリース(Rhys)。きわめてエレガントで高品質なシャルドネとピノ・ノワールを作っています。

そして今回のマウント・エデンですが、シャルドネとピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨンを同じ畑で作っています。しかもすべて極めて高品質。パーカーポイントではシャルドネとピノ・ノワールが最高96、カベルネ・ソーヴィニヨンが98点。ヴィナスではシャルドネとピノ・ノワールが最高97、カベルネ・ソーヴィニヨンが98。一つの畑でこの3品種のワールドクラスのワインを造っているというのは世界広しといってもここくらいしかないのではないでしょうか。

マウント・エデンはカリフォルニアワインの歴史の上でも重要なワイナリーです。歴史を紐解くと、ポール・マソンという人が1896年にサンタ・クルーズ・マウンテンズの麓(内陸側)のサラトガという町に40エーカーの土地を買ったことにさかのぼります。この人はブルゴーニュ出身で、シャルドネとピノ・ノワールを造ろうと、フランスにいって苗木を持ち帰ってブドウ畑を造りました。

このポール・マソンに師事していたのがマーティン・レイ。カリフォルニアワインの歴史に残る奇人変人の一人です。マーティン・レイは1936年にポール・マソンのワイナリーを買いますが、ポール・マソンはサラトガでなく、もっと標高の高いところに畑を造るべきだと諭し、42年に売却。45年にサンタ・クルーズ・マウンテンズの山中に作ったのがマーティン・レイ・ワイナリーで、これが現在のマウント・エデンです。マーティン・レイの畑はポール・マソンの畑からのシャルドネとピノ・ノワールが植えられました。ジェフリー・パターソンさんによると、おそらくルイ・ラトゥールのコルトンの畑からのものだろうとのことでした。




この、ポール・マソンが持ち込んだシャルドネとピノ・ノワールはマウント・エデン・クローンとして、現在はカリフォルニアの様々なワイナリーで使われています。特にシャルドネは写真にあるように、ブドウの実の大小の差が大きくなります。これはいわゆるミルランダージュ、結実不良であり、収量は少なくなりますが、逆に味わいの複雑さを出すのです。オールド・ウェンテと呼ばれるクローンと似た特質です。

マーティン・レイ・ワイナリーでは、マーティン・レイが極めてこだわりを持ってワインを造りましたが、SO2を添加しないなど個性が強く、ワインは時に素晴らしく美味しいのですが、失敗作も多く、ビジネスとしてはなかなか厳しいものがあったようです。マーティン・レイは1970年にワイナリーを売却、その後マウント・エデンと改名し、シャローンのリチャード・グラフがコンサルタントになりメリー・エドワーズなどがワインメーカーとして雇われましたが、いずれも長続きせず、安定しない状態が続きました。


そこへやってきたのがジェフリー・パターソンです。1981年にアシスタント・ワインメーカーとして雇われ、1982年には早くもワインメーカー兼ジェネラルマネージャーに就任しました。そこからが現在のマウント・エデンの始まりです。ジェフリーは2008年にワイナリーの最大株主になり、現在は息子がジェネラルマネージャー、娘はホスピタリティ担当と、家族で経営しています。


シャルドネは樽発酵・樽熟成をしています。マウント・エデンのワインはエステートのワイナリーのほか、近所にある「ドメーヌ・エデン」の畑のところにもあります。設備的にはドメーヌ・エデンの方が新しいものを入れていますが、樽発酵・樽熟成のシャルドネの場合は、温度調節できるタンクなどは必要としないので、全部マウント・エデンのワイナリーで作られています。

ワインの試飲はシャルドネ3種からです。今回はドメーヌ・エデンのワインはありませんでした。
最初のワインはエドナ・ヴァレーのシャルドネ2021年。このワインは唯一買いブドウで作っています。1985年からと、ジェフリー・パターソンになってすぐのころからのワインです。希望小売価格4800円と、マウント・エデンのラインアップの中では圧倒的に安いワインです。エドナ・ヴァレーは、一番冷涼なAVAと自称しており収穫は10月半ばくらいと非常に遅いのが特徴です。ワインは酸が豊かで、柑橘や黄色い花、ミネラル感を感じます。なめらかなテクスチャーで価格以上の高級感。非常にいいシャルドネです。

二つ目は2020年のエステート・シャルドネ(1万2000円)。ここの代表的なワインと言っていいでしょう。目が覚めるような鮮烈な酸と、対照的な柔らかいテクスチャー、柑橘から白桃、ナッツやハーブ、ビスケットに白い花。締りのあるきれいなシャルドネで味わいの複雑さとその幅広さが素晴らしいシャルドネです。芯の通った味わいと果実味に頼らない魅力は長熟向きです。2020年は干ばつでブドウの成熟が早く8月下旬に収穫していますが、品質は良かったとのこと。マウント・エデンの畑は灌漑をしておらず、山の斜面で元々水も少ないところなので、干ばつは影響が大きいようです。収量は1エーカー2トン未満と、かなり少ないです。

シャルドネの最後は2020年のリザーブ・シャルドネ(1万8000円)。リザーブ・シャルドネは2007年から作っているワインで、エステートの樽の中から11樽を選抜。全部まとめてステンレススティールタンクに入れて12カ月熟成します。前述のようにステンレススティールのタンクはドメーヌ・エデンの方のワイナリーにしかないので、そちらを使っています。この1年の間にブドウの澱がワインに溶け込んでなくなってしまうのだそうです。それによって、複雑さが出てきます。
エステートと比べて濃厚でオイリーなテクスチャー、トロピカルな味わい。柑橘にマンゴーやパパイヤ、黄色い花を感じます。長熟性という点ではエステートの方が上かもしれないとのこと。

次は2020年のエステートのピノ・ノワール(1万3000円)。35%全房を使っています。50%新樽、天然酵母で発酵。前述のように2020年は干ばつだったため、ピノ・ノワールも8月下旬に収穫しています。赤果実から黒果実の香り、酸高く、アーシーな風味、果実味もあるけどおとなしく、長期熟成でより魅力が発揮されるワインでしょう。

カベルネ・ソーヴィニヨンは2018年と、蔵出しの2005年の試飲です。カベルネ・ソーヴィニヨンはボルドー左岸のスタイル。冷涼なサンタ・クルーズ・マウンテンズで素晴らしいカベルネ・ソーヴィニヨンを作っているのはマウント・エデンとリッジだけと自負しています。カベルネ・ソーヴィニヨンもマーティン・レイの時代に最初に植えられており、エメット・リックスフォードという人がシャトー・マルゴーから持ち帰ったというラ・クエスタ・ヴィンヤードのカッティングを使っています。
2018年のカベルネ・ソーヴィニヨン(1万7500円)はカシス、ブラックベリー、杉やセージの風味、何よりも酸のきれいさが印象的なカベルネ・ソーヴィニヨンです。非常に長熟向き。実は酸はそれほど高くなく、高いタンニンと低いpHがそう感じさせるとのこと。

最後は蔵出しの2005年のカベルネ・ソーヴィニヨン。
ザクロやブラックベリー、セージやクローヴなどのハーブ、非常に複雑な味わいで素晴らしい。さすがの熟成力です。


ジェフリーさん、12年前は奥様と仲睦まじく来られていたのですが、別れてしまったとのことで、これはちょっと驚きでした。

マウント・エデン、ワインの造りもその魅力も12年前から変わっておらず、今では珍しいほどの長熟型ワインを造り続けています。一方で、今飲んでも十分魅力的でありサンタ・クルーズ・マウンテンズの質実剛健さを体現しているワイナリーだと思います。
Date: 2025/0328 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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インポーターのファインズによるパッツ&ホール(Patz & Hall)のセミナーに参加しました。実は個人的には初めてメーリング・リストに登録してワインを買ったのがパッツ&ホールでした。送料などが上がってしまってやめてしまったのですが、これまで一番多く飲んだワイナリーの一つだと思います。

パッツ&ホールは1988年、ドナルド・パッツとジェームズ・ホール、そして二人のパートナーの4人によって設立されました。ドナルド・パッツとジェームズ・ホールがナパのフローラ・スプリングスのセールス・マネジャーとワインメーカーとして働いていたときに意気投合したのがきっかけだったといいます。創設者の4人の中でワインメーカーのジェームズ・ホールだけは現在もオーナー兼名誉ワインメーカーとしてワイン造りに携わっています。一時期はワシントンのシャトー・サン・ミシェル傘下に入りましたが、2024年にジェームズ・ホールが買い戻したことで話題になりました(パッツ&ホール、創設者が大手ワイナリーから買い戻して独立)。

パッツ&ホールは、契約した畑のブドウを使ってワインを造る「ネゴシアン」タイプのワイナリーです。パッツ&ホールができたころはキスラーなど、ネゴシアンタイプのワイナリーの勃興時期でした。その後も2000年代のピノ・ノワールブームで人気になったコスタ・ブラウンやローリング、ブリュワー・クリフトンなど、ピノ・ノワールやシャルドネに力を入れるワイナリーではこのタイプが主流でした。しかし、その後多くは自社畑を手に入れて、そちらを中心とする方向に舵を切っています。パッツ&ホールもカーネロスに自社畑を所有していますが、あくまでもメインは契約畑であり、ウェブサイトでも栽培家を大きく取り上げています。ワインの裏ラベルにも栽培家への賛辞が書かれています。

Growers

現在は22種類のキュベを作っており、うち10種ほどが日本に輸入されています。ただ、ハイド・ヴィンヤードのピノ・ノワールなど、リクエストしてもごく少量しか輸入できないものもあるそうです。ブドウ畑はソノマのロシアン・リバー・ヴァレーとカーネロスが大部分を占めます。このほか、メンドシーノのアルダー・スプリングス(Alder Springs)、サンタ・ルシア・ハイランズのピゾーニ(Pisoni)とソベラネスの畑のブドウも使っています。

ワイン造りはどの畑でもほぼ同じです。
シャルドネ
・全房でプレス
・樽発酵、樽熟成。酸化を防ぐために樽の上部まで果汁で満たす
・新樽率は25%程度
・フルMLF
・シュール・リーで熟成
・フィルターなしでボトル詰め

ピノ・ノワール
・フリーラン・ジュースのみ
・約10%全房、オープントップの発酵槽利用
・新樽率は50%程度
・果房管理ではパンチング・ダウンとポンプオーバーを組み合わせたパンチング・オーバーという手法を導入
といった形になります。

樽材は3年間天然乾燥させた木を使った特注品(フランソワ・フレールとセガン・モロー)を使っています。ワインのスタイルはクラシックと言っていいでしょう。近年増えている酸が高く、エレガントで果実味控えめなタイプではなく、樽も果実味も十分に利いたタイプのワイです。

試飲に移ります。この日はシャルドネ2種類とピノ・ノワール4種類でした。

・ダットン・ランチ(Dutton Ranch)、シャルドネ2021(1万円)
ダットン・ランチはダットン家が持っている畑の総称で、グリーン・ヴァレーなどロシアン・リバー・ヴァレーにいくつもの畑を抱えています。適度な保水力があり、やわらかく非常に痩せているゴールドリッジ土壌の畑を多く持っています。私が買っていたころは、ダットン・ランチはパッツ&ホールのシャルドネの中でも一番陽性で、若いときから楽しめるワインでした。ダットン・ランチを有名にしたのはキスラーで、今もダットン・ランチのワインを造っていますが、パッツ&ホールが使っているのはキスラーが以前使っていた区画だそうです。

豊かな酸に柑橘系のフレーバー。白桃のようなちょっとトロピカルな風味もあります。樽香はおだやかで、なめらかなテクスチャー。

・ハイド・ヴィンヤード(Hyde Vineyard) シャルドネ2018(1万3500円)
カーネロスのナパサイドにある銘醸畑。キスラーやコングスガード、レイミー、ポール・ラトーなどそうそうたるワイナリーがブドウの供給を受ける、まさにカリフォルニアのグラン・クリュと呼ぶべき畑です。シャルドネではHyde-Wenteと呼ばれるクローンとHyde-Caleraと呼ばれるクローンのブロックがありますが、パッツ&ホールではHyde-Wenteの区画を使っています。

ミネラル感やベイキング・スパイスなど複雑味を感じる味わい。オレンジピールやネクタリンなど豊かな果実味も魅力的。さすがハイドと呼ぶべき高品質なシャルドネです。

ピノ・ノワールに移ります。
・チェノウェース・ランチ(Chenoweth Ranch)ピノ・ノワール 2018(1万5500円)
ロシアン・リバー・ヴァレー(グリーン・ヴァレー)の畑で、ダットン・ランチで畑の管理を任されていたチャーリー・チェノウェース氏の畑です。ブドウのほとんどをパッツ&ホールに提供しています。パッツのピノ・ノワールの中では最も収穫が早く果実味豊かになると言われています。

ラズベリーにレッド・チェリー、ブラックベリーのような黒果実の味わいもあり、果実の凝縮度の高さを感じます。テクスチャにもややねっとりした粘性の高さがあります。甘草や紅茶の味わいも。

・ギャップス・クラウン(Gap's Crown)ピノ・ノワール 2019(1万4000円)
強風で知られるペタルマ・ギャップの畑で、畑のオーナーはキスラーやスリー・スティックスを擁するビル・プライス。一番収穫が遅く、強風で果皮が厚くブドウの粒が小さくなるため、かなり濃い味わいのワインになります。収穫もここが一番遅いとのこと。

赤果実というよりもブラックベリーやブラック・チェリーのような黒果実主体の果実味。パワフルでスパイシー、ストラクチャーもあるピノ・ノワール。畑の個性が見事に表現されていると思います。

・ハイド・ヴィンヤード ピノ・ノワール(1万4000円)
パッツ&ホールのピノ・ノワールの中では一番エレガントで、ジェームズ・ホールはこのワインをシャンボール・ミュジニーに例えるといいます。Hyde-Caleraクローンを使っています。

赤い果実に甘草や紅茶のニュアンス。ベイキング・スパイスの香りもあります。少しタンニンを感じますがテクスチャはなめらか。

・ピゾーニ・ヴィンヤード(Pisoni Vineyard)ピノ・ノワール 2018(2万円)
パッツ&ホールは1990年代半ばからピゾーニのブドウの供給を受けている、ピゾーニのワインを造るワイナリーの中では最古参。ラターシュから持ってきたと言われるブドウは非常に濃厚で力強い味わいになります。標高が高く、午後には強い風が吹く場所で、ブドウはフルボディでストラクチャーを持ったものになります。ここだけは新樽率70%と高く、全房も20%使っています。
以前、ドナルド・パッツさんとのワイン会でピゾーニとのなれそめを聞いたのですが、以下のようなことでした。

自分(ドナルド・パッツ)は知り合いのところでPisoniのブドウで作ったワインを飲ませてもらい,これはいいと思った。パートナーのJames Hallは知り合いから「いい畑がある」と聞いてそこがPisoniだった。互いに別のルートから名前を知って,「契約したらよさそうな畑があるんだ」と同時に言ったのがPisoniだった。

果実味よりも先にウーロン茶のようなフレーバーを感じます。スパイシーで複雑。ブラック・チェリーにブラックベリー、ラズベリーの果実味が見え隠れするピノ・ノワール。ピゾーニらしさもちゃんとあり、個性的で素晴らしいピノ・ノワールです。

6種類試飲して感じたのは、前述のように作りはほぼ共通であるのにワインの味わいは大きく異なること。まさにテロワールをちゃんと表現したワインになっていると言っていいでしょう。久しぶりに飲んだピゾーニはさすがの実力でしたし、ハイドのシャルドネとピノ・ノワールも見事なできでした。



ダットン・ランチは実売8000円程度で、キスラーのダットンが3万円近くするのと比べてコスパもかなり高いです。


なかなか手に入らないハイドのシャルドネ


パッツ&ホール専用畑と言っていいチェノウェース。


これは安いですね。ショップはマリアージュ・ド・ケイ




ピゾーニ1万5000円台も安いです。これもマリアージュ・ド・ケイ
Date: 2025/0326 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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オーパス・ワン(Opne One)は新しいワインメーカーとしてミーガン・ゾベック(Meghan Zobeck)を採用しました。これまでのワインメーカーのマイケル・シラッチ(Michael Silacci)がワインメーカーになったのは2001年だったので、24年ぶりの交代ということになります。マイケル・シラッチは今後3~6年はオーパス・ワンにとどまり、リプランティングや「ホリスティック・ファーミング」(土地や土壌をシステムとしてとらえて管理する農法)へのシフトに集中する予定です。
ミーガン
ミーガン・ゾベックはアメリカンフットボールのプロ選手の代理人からの転身というユニークな経歴。ワイン業界に身を投じたのは2012年で、まだ13年しかたっていません。スタッグス・リープ・ワイン・セラーズやスクリーミング・イーグルでインターンをした後、フィリップ・メルカのアシスタントを務め、その後トロワ・ノワ(Troix Noix、元アラウホのオーナーの娘であるジェイミー・アラウホのワイナリー)でワインメーカーを務め、2020年からはバージェス・セラー(Burgess Cellar)でワインメーカーになりました。バージェスのワイナリーは2020年の山火事で焼失しましたが、その後、シルバラード・トレイルにある元ルナの設備を使ってワインを造る一方、再生可能農法へのシフトを指導しました。これで名声が高まり、特に農法での実践がシラッチの目に留まったようです。

マイケル・シラッチの前のワインメーカーはロバート・モンダヴィの次男のティムでしたが、兄のマイケルと仲が悪く、ワインの品質も安定を欠いていました。シラッチがワインメーカーになり、ロバート・モンダヴィからコンステレーションに共同オーナーが変わってから品質は安定してよくなっています。

ミーガンのように、栽培に力を入れるワインメーカーは近年の流行りでもあり、新世代のワインメーカーの代表格となりました。
Date: 2025/0322 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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Maya
ダラ・ヴァレのマヤさんが、ワイナリーにおける業界向けテイスティングについて、昨今のナパ郡の方針に懸念を表明しており、SFクロニクルが記事で取り上げています。マヤさんはインスタグラムで以下のように記しています。
私は業界の問題の最前線に立ちたいわけでも、スポークスパーソンになりたいわけでもありません。そのことは私を知るほとんどの人は知っていることです。私はワイナリーや畑で静かに、自分の仕事に専念したいのです。しかし、私は私たちのビジネスのために戦い、姿勢を示さなければならない立場に追い込まれています。次の世代に確実に未来を残すために、私とともに身を挺して立ち向かってくれた業界の友人や同僚たちの支援に畏敬の念を感じるとともに、深く謙虚な気持ちになります。ワイン業界がこれ以上理不尽な規制を受けることに耐えられないという私の意見に賛同してくださる方は、次回3月25日(火)午前9時からのナパ郡監督委員会に出席してパブリックコメントを行うか、郡職員が貿易視察に対して取っている姿勢について懸念を表明するメールを書いてください。その際、不明な点などがあれば私に連絡してください。
具体的に言うと、ダラ・ヴァレはテイスティング・ルームがなく一般の顧客は全く受け入れておりません。郡のルールでそうなっています。ただ、「トレード・ビジット」と呼ばれるような業界向けの訪問と試飲については受け入れています。テイスティング・ルームを持つワイナリーも、最大訪問者数は決められていますが、通常トレード・ビジットはそれとは別にカウントされています。実際、マヤさんが問い合わせたワイナリー20件ではどこもトレード・ビジットは訪問者数にはカウントされていませんでした。

ところが、昨今ナパ郡ではトレード・ビジットについても一般の顧客と同じように訪問者数にカウントしなければいけないというように運用が変わりつつあります。現実にはまだダラ・ヴァレなどでトレード・ビジットの受け入れが実際に禁止されたわけではないですが、ナパ郡の認識においてはルール違反ということになります。

今回の問題とは別に、ナパのフープス(Hoopes)は、テイスティング・ルームの許可が無効であるとして、即日閉鎖を求められています(フープス側は1990年までに作られた小規模ワイナリー向けの措置として認められていると主張しましたが、初審では敗訴しました)。

似たような裁判はほかにもあり、郡側が運用を恣意的に厳しくしているのではないかという見方もあります。

冒頭に書いたように、決して出たがりではなく、むしろ表に出るのを避けるタイプだったダラ・ヴァレがこういった動きに出るということが危機感の強さを表しているように思われます。
Date: 2025/0318 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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前回の続きです。


モンターニュ・ルース(Montagne Russe)は、ソノマを中心に高品質なワインを比較的リーズナブルな価格で出しているワイナリー。右から2番目のピノ・ノワールはソノマ・コーストの4つの銘醸畑のブレンド(6160円)。バランスよくジューシーで美味しい。その右のナパのカベルネ・ソーヴィニヨン「クレアーオブスキュア」は17600円と高額なワインですが、ブドウはもっとずっと高額なワインが作られる畑のものだとのこと。ジューシーで濃厚、緻密な味わいのカベルネ・ソーヴィニヨンです。


ワンストーンのロゼ・オブ・ピノノワール(3740円)はバランスよくコスパいいロゼです。


アーサーセラーズのピノ・ノワールはロシアン・リバー・ヴァレーのもので5200円と抜群のコストパフォーマンス。チェリーリッジのピノ・ノワール(6200円)はラインアップ中、一番エレガントな味わいで個人的にもリピート買いしているワイン。


カリフォルニアのシャルドネの7割を占めると言われているのがウェンテ(Wente)由来のクローン。ウェンテのワインの中でもやはり目立つのがシャルドネです。左のモーニング・フォグ(2513円)は少量のセミヨンとのブレンド。バランスよさが際立ちます。もう一つのレトロ リミテッド・リリース シャルドネは樽の風味を利かせたタイプのシャルドネ。これも2700円は安いです。


パッツ&ホールのソノマ・コースト ピノ・ノワール(10000円)。ダットン・ランチなど秀逸な畑のブレンド。ややリッチ系の味わいでうまみもあり、美味しい。


サンタ・バーバラのハッピー・キャニオンで造るスターレーンのカベルネ。このご時世に200円値下げしています(8500円)。
バランスよくおいしい。


冷涼なエドナ・ヴァレーで造るシャルドネ「トゥルー・マイス」(3000円)ですが、ワインは果実味豊かで樽の風味もある、リッチ系。シャルドネの2500円から3000円の領域は、コスパに優れたワインが多くあります。


写真がひどいですが、リッジのパソロブレス ジンファンデル(7200円)。7200円のワインにコスパというと変かもしれませんが、コスパ高い優れたジンファンデルです。


ダイアトム(Diatom)はブリュワー・クリフトンのグレッグ・ブリュワーが作るシャルドネ専門のブランド。樽を使わないきれいなシャルドネを造ります。ダイアトムとはサンタ・リタ・ヒルズの特徴の一つでもある珪藻土の土壌のこと。樽を使わないからあっさいしているのかというと、実は果実味豊かでリッチ系のあじわい。でももちろんきれいさもあります。


サンタ・バーバラのマージェラムのローヌ系ブレンド「M5」。赤と白があり、どちらも秀逸でした。

関係者の皆さん、お疲れさまでした。
Date: 2025/0317 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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カリフォルニアワインの大試飲会「Aliveテイスティング」で美味しかったワイン、気になったワインを紹介します。なにしろワインが全部で700種類を超えるという大きな試飲会なので、さすがに全部を試飲することはできず、試飲したインポーターのものに限られていることをご承知おきください。


エレメンタル・ワインズ(Element「AL」 Wines)というのはコスパワインで有名なボーグルの新ブランド。リサイクルが容易で軽量なアルミニウムを使ったボトルです。長期熟成向きではありませんが、同社でのテストでは1年以内ではガラス瓶との品質的な差はなかったとのことです。ピノ・グリージョ、シャルドネ、ロゼ、ピノ・ノワールとありますが、個人的にはアルコール度数が11%と低く、さわやかでさっぱりと飲めるピノ・グリージョが一番イメージに合っている感じがしました。
写真なしですが、ボーグルのワインでは2022年のシャルドネも良かったです。どちらかというとリッチ系の味わい。2600円はコスパ高いです。


ザ・ヴァイス(The Vice)のオレンジ・オブ・アルバリーニョ。うまみたっぷりでさわやかさもあり美味しい。5200円。


C.G.ディアーリのジンファンデル。甘々系でなくバランスよい造り。3500円は非常にコスパ高いです。


ベンジャミン・シルバーのレッド・ブレンド(6000円)。複雑さあり、酸がきれい。


シックス・クローヴズの扱いは布袋ワインズから都光に変わりましたが、ワインは代わりありません。リンダヴィスタはスティーブマサイアソンの畑。ここのシャルドネは定番です。2022年はきれいでアロマティック、2023年はうまみを強く感じ、酸がやや高い。12000円。


懐かしのサンフォード。シャルドネはリッチですが、酸も高くきれい。ピノ・ノワールはバランスよく華やか。


ボーエン(Boen)は、ナパのケイマスのオーナーであるワグナー家のピノ・ノワールとシャルドネのブランド。かつてのメイオミ(Meiomi)の後継という位置づけです。ワグナー家のワインというとかなり濃いイメージがありますが、ここのシャルドネとピノはリッチではありますが、バランスよく美味しい。


冷涼なエドナ・ヴァレーで白品種を造るタンジェント。ソーヴィニヨン・ブラン、アルバリーニョ、ピノグリ、グリューナー・フェルトリーナー(これだけゾッカーブランド)がありますが、ソーヴィニヨン・ブランとアルバリーニョがお薦め。どちらも香り豊かで酸のきれいさが際立ちます。


ウィプラッシュ(Whiplash)は、ブレッド&バタ―で知られるWX Brandsの造るワインの一つ。WX Brandsのワインメーカーであるリンダ・トロッタは2018年にはノースベイ・ビジネス・ジャーナルによるナパヴァレー・ワインメーカー・オブ・ザ・イヤーに選ばれています。シャルドネ、ピノ・ノワール、ジンファンデル、カベルネ・ソーヴィニヨンが出ていましたが、個人的にはジンファンデルが良かったです(3500円)。果実味豊かですが、ストラクチャーもあり、エレガントにすら感じます。


エドナ・ヴァレーからもう一つバイリヤーナ(Baileyana)のシャルドネ(6000円)を紹介します。柑橘系の豊かな果実味にミネラル感があり、エドナヴァレーらしい酸もすばらしい。


アンディ・エリクソンがコンサルタントを務めるアルファオメガのソーヴィニヨン・ブラン(7400円)。パソロブレスのソーヴィニヨン・ブランは珍しいですが、あえてメジャー産地でないところのブドウを発掘するのがアンディ・エリクソンらしいところ(彼のリヴァイアサンもナパ以外のブドウで秀逸なボルドー系ブレンドを作っています)。ブラインドで飲んだらナパの高級ソーヴィニヨン・ブランと答えそうな、リッチな果実味と上品な酸があります。


ダットン・エステートのシャルドネ(11000円)。ソノマのグリーン・ヴァレー、ロシアン・リバー・ヴァレーに多数の畑を持つダットン・ランチの自社ブランド。さすがのレベルの高さです。


この試飲会のカベルネ系ワインの中でベストだったのが、この2つ。超有名コンサルタントのミシェル・ロランが自分の名前を付けて造る世界で唯一のワイナリーです。MRはカベルネ・ソーヴィニヨン(46000円)。ベクストファー・ト・カロンのブドウを使っているようです。リッチで芳醇。オークヴィルのカベルネのお手本的なワイン。ザ・ディベイト(The Debate,
40000円)は同じベクストファー・ト・カロンの畑ですが品種はカベルネ・フラン。ベクストファー・ト・カロンの畑の中でもカベルネ・フランは1割しかないとのこと。カベルネ・ソーヴィニヨン以上にリッチでタニック。パワフルなワイン。生産量はわずか100ケース。これは熟成させたらすごいワインになりそうです。

長くなるので、とりあえずここまで。

Date: 2025/0314 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ここ数年、話題の絶えないフリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー(Freeman Vineyard & Winery)と、そのオーナーでワインメーカーのアキコ・フリーマンさんですが、ワインメーカーが交代することが発表されました。新しいワインメーカーは赤星映司ダニエルさん。アキコさんは、ディレクター・オブ・ワインメイキングとして携わっていきます。


近年のフリーマン関係の記事をまとめておきます。
「レイト・ディスゴージやロゼ・スパークリングも造ってます」――フリーマン・アキコさんに訊く
フリーマンのアキコさん、農業への功績で表彰 国外女性では初
フリーマン夫妻、ハリス副大統領と岸田首相の昼食会招待で「仰天」
アキコ・フリーマンさんにまたも名誉、女性の「優秀ワイン醸造賞」受賞
フリーマンの新作リースリングなどをアキコさんと味わう

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赤星さんはブラジルの生まれ、幼少期をチリで過ごし、ハワイ大学で生物学を学びました。日本には2年ほど住んだことがあり、会話は日本語で大丈夫ですが、読み書きは苦手とのことです。小さいころから周りのものを触って匂いを嗅いだり、味を確かめたりといったことが好きで、その経験がワインメーカーとして生きているそうです。幼少のころから家にはワインがあり、赤星さんもワインに親しんでいました。大学の卒業にあたって進路で悩んでいるときに、好きなワインと生物学を結びつけるものとしてワインメーカーになることを志し、改めてカリフォルニアでワインの勉強をしました。醸造を学んだカリフォルニア大学フレズノ校はアキコさんの師匠のエド・カーツマンの母校でもあり、エド・カーツマンの講義を赤星さんが受講したことがあると、以前聞いております。
ところで、カリフォルニアに来るときに、親戚でワインを造っていた人がいたらしいと聞き、調べてわかったのが長沢鼎との関係でした。長沢鼎は江戸時代末期に薩摩藩から英国に渡り、そこからニューヨーク、ソノマと渡り住んで「ブドウ王」とまで呼ばれた人です(カリフォルニアの「ブドウ王」長沢鼎のセミナーに参加しましたカリフォルニアの「ブドウ王」を産んだのは「あさが来た」の五代さんだったというびっくりぽんな話などを参照)。長沢が作ったワイナリー「ファウンテングローヴ(Fountaingrove)」は現在はAVAの名称として残っています。赤星さんは、親戚でワイン造りをするのは自分が最初かと思っていたら、大いなる先人がいたことがわかり驚いたそうです。赤星さんの曾祖父に当たる赤星鉄馬さんは、実際にファウンテングローヴを訪問しており、写真も残っています。
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ワインメーカーとしては、グリーン&レッドやロンバウアーなどナパのワイナリーで働くことが多く、ソノマとは縁遠かったのですが、本人はピノ・ノワールが好きで、十数年前に日系のワイン業界の集まりで飲んだフリーマンのピノ・ノワールが鳥肌が立つほどおいしく、記憶に残っていたそうです。そして共通の知人からフリーマンがワインメーカーを探していることを聞き、メールで応募しました。その後カフェテリアで1時間半ほど話をし、最後にアキコさんが「うん、いいんじゃない」と言いました。それが採用OKとの意味でした。
2023年、24年と2ヴィンテージ一緒に作った感想として、アキコさんと赤星さんのワインの方向性がとても似ていることが分かったそうです。また、フリーマンでは毎年、ピノ・ノワールのトップキュベである「アキコズキュベ」のブレンドを、初代ワインメーカーのエド・カーツマンさんなど数人で作り、一番人気だったものを選んでいます。過去20年間ずっとアキコさんが勝ち続けていたのですが、2024年はアキコさんが自分の作ったブレンドだと思ったのが赤星さんので、それが選ばれたそうです。これも、ワインメーカーとして今後をゆだねるにあたって大きな意味があったようです。
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このほかにも、アキコさんと赤星さんには縁があることがその後分かりました。写真の六本木にある国際文化会館。この敷地は岩崎弥太郎の家があったところですが、アキコさんの祖母が岩崎弥太郎の長女の姪なのです。そして、岩崎弥太郎にこの土地を売ったのが上記の赤星鉄馬だったのです。関東大震災で鉄馬の家が壊れてしまい、別のところに引っ越すときに弥太郎に譲ったという経緯でした。このことがわかって赤星さんがアキコさんにメッセージで伝えると「100年ぶりの再会ですね」と返事がきたということでした。

このように、様々な縁でつながった今回のワインメーカー就任。今後のフリーマンのワインにもさらに期待したいと思います。また、今回明らかになったのが、フリーマンに第3の畑ができるというニュース。アキコさんが東京に来ている間にケンさんから急に「買ったよ」という連絡が来たそうです。場所はおそらく下の地図でLittoraiのLの字のあたりではないかと思います。リトライの畑や幻ワイナリーの近くです。AVAでいうとロシアン・リバー・ヴァレーですが、現在セバストポール・ヒルズ(Sebastopol Hills)としてAVA申請している地域になります。まだブドウ畑でもなくリンゴ畑だったところであり、リンゴを引き抜くところから始めています。シャルドネやリースリングなど白品種の畑にしたいとのことです。おそらくここのワインがリリースされるのは4、5年後だと思いますが、ここが立ち上がるとエステートのブドウだけで95%くらいまかなえるようになるそうです。
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ワインメーカー就任の発表会の後はテイスティングです。今回は特に新しいワインがあるわけではありませんが、ハリス前副大統領とのランチで提供したワイン3種などもありました。

・2022 光風リースリング ソノマ・コースト
「酸フェチ」だというアキコさんらしい、ドライで酸がきりりとしたリースリング。リンゴのさわやかさに、ピーチの熟した果実の風味もあります。ちょっとオイリーなテクスチャーが高級感を醸し出します。最初に試飲したのがちょうど1年前ですが、そのときよりも酸の落ち着きが感じられました。畑はロス・コブのアビゲイル。

次は2024年米国副大統領ランチの3本です。
・ 2020 ユーキ・エステートブラン・ド・ブランソノマ・コースト
このワインも3年ほど前のリリース時にいただいています。その後も何度か試飲しています。当初はスリムで鮮烈な酸が印象的でしたが、こちらも酸が大分落ち着いて、果実のうまみが出てきています。花の香りや白桃、オレンジピール。今が一番飲みごろかもしれません(と書きつつ、自分が持っているのはもう1年くらい寝かそうと思っています)。ブランドブランはこれが最初で、今後は予定がないため、貴重なワインです。

・ 2022 涼風シャルドネグリーン・ヴァレー・オブ・ロシアン・リヴァー・ヴァレー
このワインも先月、シャルドネ・セミナーで飲んでいます。柑橘に花梨、ビスケットの風味が心地よい、酸も高すぎず美味しいシャルドネです。畑はチャールズ・ハインツとダットン。

・ 2021 アキコズ・キュヴェピノ・ノワールウエスト・ソノマ・コースト
いつもながらバランスの良さを感じるワイン。赤系果実の香り豊かで酸もきれい。エレガント系ピノとして秀逸です。

最後に自社畑のピノ・ノワール2つです。
・ 2019 グロリア・エステート「輝」ピノ・ノワールグリーン・ヴァレー・オブ・ロシアン・リヴァー・ヴァレー
カリフォルニアらしい豊かな果実味を持つピノ・ノワール。赤い果実に、シナモンなどのスパイスを感じます。ロシアン・リバー・ヴァレーらしいワインといってもいいでしょう。

・2019 ユーキ・エステートピノ・ノワールソノマ・コースト
ユーキ・ヴィンヤードはウエスト・ソノマ・コーストの畑。このヴィンテージはまだウエスト・ソノマ・コーストが認定される前だったのでソノマ・コースト表記になっています。冷涼さと、「セイボリー」と言われるようなキノコ系のうまみやハーブの風味が特徴です。カシスやザクロなど果実の熟度もあり酸が豊か。

Date: 2025/0313 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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3月4日に、東京で行われたAliveテイスティングの生産者セミナーに出席しました。セミナーは午前と午後と2回行われて、それぞれ生産者が異なっていますが、私が参加した午前の部は
モデレーター/パネリスト:Greg Brewer, Brewer-Clifton
パネリスト:Spencer Shull, Fess Parker Winery
Isabelle Clendenen, Au Bon Climat
Pierre LaBarge, LaBarge Winery
AJ Fairbanks, Crown Point Vineyards
の5人でした。ただ、Pierre LaBargeさんは家庭の事情で急遽来日が取りやめになり、ビデオでの参加でした。

サンタ・バーバラ郡は、ロスアンゼルスから北に2時間ほどドライブしたところにあります。セントラル・コーストの一番南であり、約20年前のアカデミー賞脚色賞受賞映画「サイドウェイ」の舞台になったことでも知られています。
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サンタ・バーバラがカリフォルニアの中でも特別なのは東西方向の海岸線を持っていること。大半が南北方向の海岸線のカリフォルニアで、ここだけが南北から直角に東西に折れ曲がる形になっています。沿岸に沿って走る沿岸山脈も東西方向に走るため、西の太平洋から山脈に遮られずに冷たい風が入ってくる、冷涼地域です。
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また、緯度の低さから夏と冬との気温差が非常に小さいのも特徴で、ブドウの芽は早いところでは2月に芽吹くほど。カリフォルニアの中でも特に長い生育シーズンを誇ります。

域内には上の地図で示したように7つのAVAがあります。
ブドウ畑の面積は11000エーカー以上で、栽培品種は多い順に、シャルドネ、ピノ・ノワール、シラー、ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン。合計75品種が作られています。
AVAの説明をしていきます。
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サンタ・マリア・ヴァレーはカリフォルニアでナパヴァレーの次に策定された古いAVA。サンタ・バーバラのAVAの中では一番北になります。ここは何といっても銘醸畑ビエン・ナシード(Bien Nacido)があるところとして知られています。オー・ボン・クリマ(Au Bon Climat)も昔からここのブドウを多く使っており、ワイナリーも畑の横にあります。オー・ボン・クリマの自社畑ル・ボン・クリマや、ビエン・ナシードのオーナーであるミラー家のもう一つの畑ソロモン・ヒルズもこのAVA内です。
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サンタ・イネズ・ヴァレーはサンタ・マリアと対をなす南側のAVAです。前述のように西の太平洋からの風が入ってくるのが特徴ですが、東の内陸に行くとどんどん気温が上がっていきます。ここの西端と東端では気温が大きくことなります。このように一つのAVAとして語るのが難しく、現在はこの中にさらに4つのAVAが作られています。現在ではサンタ・イネズと名乗るワインも減ってきているので、サブAVAで見ていきましょう。

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サンタ・リタ・ヒルズはサンタ・イネズ内のAVAとしては一番西に在り、冷涼な地域です。海からの強い風が吹くことでも知られており、海風による塩味がワインに感じられることもしばしばあります。砂質土壌やチョーク質の珪藻土の土壌などが特徴となっています。今回のモデレーターであるグレッグ・ブリュワーのブリュワー・クリフトン、グレッグが以前ワインメーカーを務めていたメルヴィル、近年高品質のピノ・ノワールで人気急上昇のドメーヌ・ド・ラ・コート、スクリーミング・イーグルのオーナーが持つザ・ヒルトなど、人気ワイナリーが数多くあります。また、サンタ・マリア・ヴァレーのビエンナシードと並び称される銘醸畑サンフォード&ベネディクトがこのAVAにあります。

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一つ内陸に入ったバラード・キャニオンは、カリフォルニアでは珍しい石灰岩の土壌があり、ローヌ系品種で知られています。ザ・ヒルトの兄弟ワイナリーであるホナタ(Jonata)が有名です。

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バラード・キャニオンの東にあるロス・オリヴォス・ディストリクトはソーヴィニヨン・ブランやカベルネ・フラン、メルロー、ローヌ系品種などが作られています。

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サンタ・イネズ・ヴァレーのサブAVAの中で一番内陸にある(すなわち、一番暖かい)のがハッピー・キャニオンです。ボルドー品種が中心に植えられています。国内で人気のワイナリー、スター・レーン(Star Lane)がこの地域にあります。

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最後に紹介するAVAはアリソス・キャニオン。サンタ・イネズ・ヴァレーと、サンタ・マリア・ヴァレーに挟まれたところにあります。ここは2020年に策定された新しいAVAということもあり、様々な品種が実験的に栽培されています。例えばピクプールやメンシアといった、あまり有名でない品種も作られています。

続いて、セミナーに参加した個々のワイナリーの紹介です。

最初はフェス・パーカー(Fess Parker)。サンタ・バーバラのワイナリー団体に11番目に加盟した比較的古いワイナリーです。サンタ・リタ・ヒルズとサンタ・マリア・ヴァレーのブルゴーニュ品種、自社畑でのローヌ品種のワインを主に使っています。
ワイナリーはロス・オリボスにありますが、今回のワインはサンタ・リタ・ヒルズの自社畑アシュリーズ(Ashley's)のシャルドネ2023。太平洋から20kmで、砂質土壌。土壌が太陽からの熱を蓄えています。2023年は冷涼な年で、非常に生育期間が長く、収穫は11月の第1週! 100%樽発酵(37%新樽)で7カ月熟成しています。柑橘系の風味に、わずかにアプリコット。ブリオッシュ。リッチで豊かな風味ですが酸もしっかりあってバランスはいい。なめらかなテクスチャで、美味しいシャルドネでした。


次のワインは、モデレーターでもあるグレッグ・ブリュワーのブリュワー・クリフトンから2023年のサンタ・リタ・ヒルズ ピノ・ノワール。サンタ・リタ・ヒルズの4つの自社畑のブドウをブレンドしたものです。

ブリュワー・クリフトンは1996年にスティーブ・クリフトン(2016年にブリュワー・クリフトンをやめ自身のプロジェクトに専念)とともに設立しました。当時はグレッグはまだ25歳で全財産は12000ドル。それをすべて注ぎ込んでサンタ・リタ・ヒルズのワインに人生を賭けてきました。その過程では多くの人の手助けがありました。例えば、上記のフェス・パーカーを営むスペンサー家からは、安価で樽を分けてもらい、オー・ボン・クリマのジム・クレンデネンさんは世界中にサンタ・バーバラのワインをプロモートしてくれました。また、このセミナーには登壇していませんが、一緒に来日したマージェラムのダグ・マージェラムさんにも特別の感謝をささげました。ダグ・マージェラムさんはワイナリー以上にサンタ・バーバラのワインカスクというレストランのオーナーとして知られています。ワインカスクはサンタ・バーバラのワインの集積地であり、ほぼすべてのワイナリーがここで紹介されて世に広まっていっています。
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実はブリュワー・クリフトンのラベルのロゴはワインカスクの天井の装飾を模したものだとのことで、それだけワインカスクとの深い結びつきがあることを示しています。
ブリュワー・クリフトンのコンセプトは土地に敬意を払い、捧げるというもの。ワイナリー設立当初から、テロワールの表現にこだわり、すべてのワインを同じレシピで造っていました(「復刻:2004年のBrewer-Cliftonワイン会実録」に2004年にうかがった話をまとめています)。
もう一つのこだわりが全房発酵。全房発酵によって「タンニンやストラクチャー、うまみを与えてくれる」ことを期待しています。茎からカリウムが出ることによって、pHは上がるのですが、サンタ・リタ・ヒルズは冷涼で酸が保持されるため、酸が弱くなることはありません。また、熟成に使う樽は10~25年使った古いもの。いわゆる樽のフレーバーは全く付かないものです。
サンタ・リタ・ヒルズにはほかにもドメーヌ・ド・ラ・コート、メルヴィルと全房比率が高い有名ワイナリーがあります。サンタ・リタ・ヒルズはピュアな果実の風味が強く、丸みのある味わいになりがちです。茎を加えることでストラクチャーを与えたいというのが、サンタ・リタ・ヒルズのピノ・ノワールで全房を使う例が目立つ理由だそうです。
ワインを飲んでみると、確かに「セイボリー」と言われるようなうまみが感じられます。紅茶やキノコの風味もあります。赤果実と酸も上品で美味しい。果実味が爆発するようなワインではありませんが、ピノ・ノワール好きに刺さりそうな味わいです。


3番目はオー・ボン・クリマ。故ジム・クレンデネンの長女のイザベルさんが代表で話します。いうまでもなくオー・ボン・クリマのフラッグシップであるピノ・ノワール「イザベル」の名前の元となったイザベルさんです。彼女には11年前にもお会いしています(イザベル嬢にイザベル注いでもらったから2月18日はABC記念日)。マンガが好きで日本語を勉強しており、今回のプレゼンも日本語で行いました。オー・ボン・クリマは前述のジム・クレンデネンが1982年に設立したワイナリーです。ジムの死後は、イザベルと弟のノックス、ワインメーカーのジム・エデルマン、セラーマスターのエンリケ・ロドリゲスの4人のチームで運営しています。ノックス君は将来はワインメーカーを目指しているそうですが、「今はアシスタントのアシスタントくらい」とイザベルさん。ただ、それでも父が若かりしころ、サンタ・バーバラ(当時はZaka Mesaで働いていた)、ブルゴーニュ、オーストラリアの3カ所での収穫を1年で経験したというエピソードにあやかり、昨年はニュージーランド、ブルゴーニュ、カリフォルニアで収穫体験をしてきたそうです。今回はノックス君も来日して、試飲会でワインを注ぎ、姉弟で大人気でした。
さてワインはオー・ボン・クリマのピノ・ノワール ノックス・アレキサンダー2020です。ビエン・ナシードのブドウに、その隣のランウェイという畑、サンタ・マリアにオー・ボン・クリマが所有する自社畑ル・ボン・クリマを加えています。「イザベル」はサンタ・バーバラからソノマまで、カリフォルニアの沿岸各地の畑のブドウをブレンドした、ブレンドによって最良のピノを目指したワインであるのに対し、こちらはサンタ・マリア・ヴァレーで最良のピノ・ノワールを目指しています。
まろやかな味わいで紅茶に、ラズベリーやハーブ、ナツメグやカルダモンといったスパイスを感じるのがノックスの特徴です。

ワインの作り自体はブリュワー・クリフトンと好対照で、ブリュワー・クリフトンの新樽ゼロに対して、こちらは新樽100%での熟成を行っています。全房はほとんど使わず、このヴィンテージは25%となっています。ビエン・ナシードの畑には独特なスパイスの風味があり。そのため全房を入れるとちょっと味が強すぎてしまうのだそうです。サンタ・マリアは全体的に同じ傾向があり、同じサンタ・バーバラといってもサンタ・リタ・ヒルズと対照的です。ちなみに、オー・ボン・クリマでは唯一100%全房発酵で作っているワインとしてラームドクラップというピノ・ノワールがあります。茎が完熟した年にしか作らないレアなワインですが、これまではサンタ・リタ・ヒルズのサンフォード・ベネディクトのブドウで作っていました。ただし2020年だけは例外的にビエン・ナシードで作ったそうです。こちらは未試飲ですが、どういう味わいになるのか興味深いです。

4番目のワイナリーはラバージュ(LaBarge)。サンタ・リタ・ヒルズのワイナリーです。2009年にピエール・ラバージュ4世が「土地の個性を映し出すワインを造る」ことを目指して創業しました。17エーカーの自社畑では、アルバリーニョ、ピノ・ノワール、グルナッシュ、シラーを栽培。すべてCCOFによる有機認証を取得しています。
ワインはグルナッシュ2021。ピエールはシネクアノンで働いたことがあり、それでグルナッシュに興味を持ったそうです。シネクアノンの畑Eleven Confessionsもサンタ・リタ・ヒルズにありますが、温暖な気候を好むグルナッシュの栽培地域としては非常に冷涼。ラバージュではブドウの実を半分くらいに減らすことでブドウを完熟させています。一方で、日光が当たりすぎるとブドウの実が白くなってしまうなど、気難しいところもあり、他の品種の3倍近くの労力が必要な品種だとのことです。使っているグルナッシュのクローンは、エドナ・ヴァレーのアルバン由来のものとフランス由来のものがあり、フランスのものは全房発酵に向き、アルバンのものは実のつけ方がルースで除梗に向くとのこと。23%全房を使っています。
ラバージュではグルナッシュを「ステロイド入りピノ・ノワール」と呼んでいるそうで、確かにアルコール度数は15.4%と高く、タンニンもしっかりしています。ただ、酸が高くアルコール度数の高さを感じさせないエレガントさがあります。パワフルだけどエレガントという面白いワイン。


最後のワイナリーはクラウン・ポイント(Crown Point)。最も温暖なハッピー・キャニオンにあり、カベルネ・ソーヴィニヨンなどのボルドー品種を作っています。
畑のあるところは標高290mと比較的高く、南向きの斜度が30度もある斜面です。岩が多く表土が浅いため、収穫量が自然に抑えられます。
ワインは2021年のカベルネ・ソーヴィニヨン。評論家のジェブ・ダナックは「これはほぼ完璧と言える仕上がりで、おそらくサンタ・バーバラ郡で味わった最高のボルドーブレンドだ」として98点を付けています。カベルネ・ソーヴィニヨン97%にプティ・ヴェルドが3%。新樽率50%で22カ月熟成しています。
カシスやブルーベリー、やや甘やかさがあり、やわらかなテクスチャ。とてもいいカベルネです。




サンタ・バーバラのワインはオー・ボン・クリマを除くとまだまだ日本で知られていないところがたくさんあります。非常にレベルの高いワインが多く、ピノ・ノワールやシャルドネだけ見ても魅力的なワイナリーが多数あります。今年のテーマ産地を機会に、人気が広がることを期待します。
Date: 2025/0310 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ロバート・モンダヴィの2人の孫、カルロとダンテ・モンダヴィが作ったことで知られているソノマ・コーストのレイン(Raen)のピノ・ノワールとシャルドネに、ジェームズ・サックリングが驚くほどの高評価を付けています。2月5日付けの週間レポートで記事が公開されています(RAEN Magic, Plus Taming Barbaresco's Difficult 2022: Weekly Tasting Report | JamesSuckling.com)。日本にもこの2023ヴィンテージが入荷してきています。

2023 Freestone Occidental Bodega Pinot Noir: 100 points
2023 Fort Ross-Seaview Charles Ranch Chardonnay: 100 points
2023 Fort Ross-Seaview Sea Field Pinot Noir: 99 points
2023 Sonoma Coast Royal St. Robert Pinot Noir: 99 points
2023 Sonoma Coast Lady Marjorie Chardonnay: 99 points

レインのピノ・ノワールは2023年のワイン・スペクテーター年間4位に選ばれるなど、すでに高い評価を得ていますが、正直に言って、まだまだ日本ではプロも含めて知られていないのが実情です。2月にはカルロが来日していますが、ほとんど話題に上がっていないようでした(私はちょうどナパの試験と重なっていけませんでした)。



モンダヴィ一家といえば、ナパがメインフィールドであり、カルロとダンテの父であるティム・モンダヴィはナパのぷリチャード・ヒルのコンティニュアム(Continuum)でワインを造っていますが、カルロとダンテは父ティムがロバート・モンダヴィ時代に作ったピノ・ノワールや、祖父ロバートと一緒に訪問したブルゴーニュの生産者(ルフレーヴやDRC)に影響を受けて、ピノ・ノワールをメインにしたワインを造るために冷涼なソノマ・コーストに移りました。また、何よりも栽培が大事ということで、「ワイングローワー」と名乗っています。

レインのピノ・ノワールの一つの特徴が全房発酵をメインとすること。これについて、カルロ・モンダヴィは以前、インタビュー(これもジェームズ・サックリングでした)に答えてこう語っています。

私は、全房がすべてのブドウ園でうまく育つとは思いません。また、すべての状況、すべてのヴィンテージでうまく育つとも限りません。全房なら、潜在アルコール度数が 12.5 ~ 13 パーセントで、早期収穫が可能になりますが、通常、総酸度が非常に高いため、茎から外すと、角張ってざらざらしたワインになってしまいます。房なので、茎に少量のカリウムがあり、それが酒石酸と結合して酒石酸水素カリウムを形成し、pH をわずかに上昇させて、この素晴らしい質感を生み出します。香りの高揚、新鮮さ、明るさ、そして口当たりの質感と豊かさという、これらすべての要素が得られ、私はそれが大好きです。

全房による複雑さもあり、長期熟成も可能だと思いますが、親しみやすさも持つワインです。

そろそろブルゴーニュ愛好家にも見つかってしまうのではないかという気もしますが、もっと知られてほしいと思う半面、入手困難になってほしくないという微妙な気持ちもなきにしもあらずです。

以下、2023年のワイン3種です。ショップは全てウメムラです。
100点のピノ・ノワールです。


100点のシャルドネです。


99点のピノ・ノワール(ロイヤル・セント・ロバート・キュヴェ)です。ワインの名前は祖父ロバートに敬意を表して付けたものです。


Date: 2025/0307 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ニールセンIQが1月に発表したデータによると、2024年の米国のワイン市場は苦戦が続いています。

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赤ワイン、白ワイン、ロゼ、スパークリングのすべてのセグメントが前年比マイナス。比較的マシな白ワインが1.6%減でしが、あとは5%前後という大きなマイナスになっています。なおこのなかでイタリアのプロセッコだけは2.5%増と近年の好調が続いています。

ワイン関連の他のセグメントを含めた市場規模と前年比を示したのが次の図です。
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酒/梅酒が1.8%増というのも興味深いですが、それよりも3割近く伸びているセグメントが二つあるのが目立ちます。一つが一番下のノンアルコール・ワイン、もう一つが上から3番目のワイン・ベースRTDです。

RTDとはReady-to-Drinkの略で、缶入り飲料などそのまま飲めるタイプの飲料を示します。
The Wine-Based RTDs We Are Too Embarrassed to Talk About | Meininger's International」という記事によると、ワインベースのRTDは、BarefootやSutter Homeといった従来のワイナリーも出していますが、より伸びているのがイタリア発のStella Rosaというブランドだそうです。低アルコールで甘く、フルーツフレーバーというカクテル系のワインで、2023年には400万ケースを販売したとか。これはケンドール・ジャクソンなどの大手ワイナリーを上回っています。XXLというフレーバードワインも創設2年で350万ケースに達したとのこと。

これらのフレーバードワインは、従来のワインの文脈からは無視されていますが、このように実際には米国市場でかなりの存在感を示すようになっています。

一方で、日本でも「「酒離れ」でもワイン人気 缶のスパークリング、若者支持」という記事が日経に出ていましたが、缶入りスパークリングが10年で14倍の市場になったそうです。米国とタイプは違いますがこちらもRTD系であり、パッケージングのフォーマットなどが今後のワイン市場において、より重要になってくることがうかがえます。
Date: 2025/0306 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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トランプ大統領がカナダとメキシコからの輸入品に25%の関税をかけはじめたことを受け、カナダのLCBO(オンタリオ州酒類管理委員会)は米国産アルコール飲料の撤去を決めました。

オンタリオ州では毎年10憶ドル相当に上る米国産アルコール飲料を輸入していました。既に輸入して小売店に並んでいる分も当面倉庫などに保管するとのことです。

オンタリオ州クラフトビール協会(OCB)も、トランプ大統領の関税導入を受けて米国産アルコールを除外する動きを強く支持すると述べています。

カナダの他の州もこれに追随する方向です。
Date: 2025/0305 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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レーヴェンズウッド(レイヴェンズウッド、Ravenswood)の創設者であり「ジンファンデルのゴッドファーザー」と呼ばれたジョエル・ピーターソンが、5年ぶりに同ワイナリーに復帰すると、ワイン・スペクテーターが報じています(Zinfandel Icon Ravenswood Returns After a 5-Year Hiatus)。


ジョエル・ピーターソンは1976年にレーヴェンズウッドを設立。「軟弱なワインは作らない(No Wimpy Wines)」をモットーに、独自のジンファンデルのスタイルを築きました。ただ、出資者との間の金銭的な問題により、2001年にコンステレーション・ブランズに売却。その後もワイナリーにはとどまっていましたが、生産するワインが、安価なヴィントナーズ・ブレンドに集中する中で、現場からは遠ざかるようになりました。そして2019年にコンステレーションが30以上のブランドをガロに売却する方針を発表し(ガロ、コンステレーションからフランシスカン、レイヴェンズウッドなど30以上のブランドを取得)、2020年にはワイナリーやテイスティングルームが閉鎖し、オールド・ヒル・ランチなど、古木の畑との契約も終了して実質的に休眠状態になっていました。

なお、この間、ジョエル・ピーターソンは新たにワンス・アンド・フューチャーというブランドを立ち上げ、オールド・ヒル・ランチを含む単一畑のジンファンデルなどを製造しています。

その後、ガロ家のマット・ガロがブランドの再生を図るため、ジョエルに接触してきました。当初は懐疑的だったそうですが、議論を重ねるうちにガロがまじめに再生を図っていることがわかり、コンサルタントとして参画することになりました。ジョエルからのコメントは「しくじるんじゃねーぞ(Don’t F it up!)」だけだったとか。

当初は2022年ヴィンテージからの復活予定でしたが、2022年が熱波の影響であまりいいワインができず、2023年からとなりました。生産量は3400ケースで27ドルの「ドライクリーク・ヴァレー ジンファンデル」が1900ケース。あとはテルデスキ(Teldeschi)とマクマレイ(MacMurray)、モンテ・ロッソ(Monte Rosso)がそれぞれ500ケース。価格はモンテ・ロッソが70ドルであとは50ドルです。なお、モンテ・ロッソとマクマレイはガロが所有しています。

なお、ジョエルは今回の就任にあたり金銭的報酬を受けないとのこと。その分をジンファンデル・アドボケーツ&プロデューサーズ(ZAP)に寄付することにしています。
Date: 2025/0305 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ロバート・モンダヴィなど、数多くのワインブランドを保有するコンステレーション・ブランズ(Constellation Brands)が、ワインビジネスをすべて売却する方向で検討しているという記事がWineBusinessに出ていました(Constellation Eyeing Exit from Wine Business)。

記事によると、ワインビジネスの停滞と、メキシコ産ビールビジネスの成功によって、ワインビジネス売却の方向に動いているとのことです。現在の交渉では、セントラルヴァレーのワイン事業はデリカート・ファミリーに売却し、ナパヴァレーなど沿岸地域のブランドは、先日バタフライ・エクイティに買収され、上場を撤回したダックホーンに売却する方針とのこと。

3社はWineBusinessからの問い合わせに対してコメントを控えています。

コンステレーションは2024年8月にサンタ・バーバラのシー・スモークを買収しており、その金額を補うために低価格ブランドの一部を売却することを検討しているとしていました。CEOは当時、2024年末までにワイン業界は好転すると見ていましたが、実際には2024年11月30日までの3か月間で、ワインの売上が16.4%減の510万ケース、純売上高が2023年比14%減の4億3140万ドルと低迷が続いています。同じ期間に、ビールの出荷量は1.6%増の1億270万ケース相当となり、純売上高は3%増の20億3000万ドルでした。

2月にはウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイがコンステレーションに投資したことが明らかになっていますが、これもおそらくビールビジネスの好調を受けてのものと思われます。

Date: 2025/0304 Category: 業界ニュース
Posted by: Andy
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ウエスト・ソノマ・コーストの旗手ロス・コブ氏が2年ぶりに来日してセミナーが開かれました。



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ウエスト・ソノマ・コーストは2022年に策定された新しいAVA。ソノマ・コーストAVAがあまりにも広すぎ、ロシアン・リバー・ヴァレーなどの内陸の産地までも含んでいるため「真の冷涼な沿岸地域」として策定されたものです。

ウエスト・ソノマ・コーストの中央あたりにはフォートロス・シービューAVAが含まれています。マーカッシンやフラワーズ、ウェイフェアラーなどの有名ワイナリーを含むこの地域は標高が高く、霧がほとんどかからないため、極めて冷涼でありながら、太陽の光をしっかりと浴び、濃厚でパワフルなワインになりがちです。一方、この地域の南の方は標高が低いため、霧に覆われている時間が長く、エレガントなワインになります。コブのワインは基本的にウエスト・ソノマ・コーストの南部か、その東側のグリーンヴァレーなどの冷涼地域のブドウから作られており、カリフォルニアのピノ・ノワール、シャルドネの生産者の中でもエレガントさでいえばトップといっていいでしょう。
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コブのワイナリーがあるのは地図で示したところ。ここにコーストランズ(Coastlands)という、ロス・コブの両親が1989年に最初に開墾した畑があります。太平洋からの距離は約6km、標高は300mあまりです。当時、ロス・コブは大学1年生。カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校に通っていました。生物学を専攻していましたが、畑に興味を持ち土壌科学に転科しました。

両親の時代はワインはまだ作っておらず、ピノ・ノワールをWilliams-Selyemに売っていました。Williams-Selyemでは1994年から現在に至るまでコーストランズのピノ・ノワールを作っており、ワイン・アドヴォケイトで最高97点という高い評価を得ています。

ロス・コブ氏自身は大学卒業後、ソノマのフェラーリ・カラーノやウィリアムズ・セリエムなどで働き、2001年から「コブ・ワインズ」として自身のワインも作り始めています。現在は、コーストランズのほか、ワイナリーの500mほど南にあるドックス・ランチ(Doc's Ranch)、グリーン・ヴァレーのフリーマンのワイナリーのすぐ隣にあるアビゲイル(Abigail's)の自社畑を持ち、このほかメンドシーノを含めた10あまりの畑から単一畑のワインを造っています。

試飲の最初のワインはリースリング。メンドシーノにあるコール・ランチ(Cole Ranch)という畑。ここは
Cole Ranchという極めて小さなAVAに属す唯一の畑です。
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リースリングは低温(10℃)で発酵せます。ステンレスタンクで発酵させ、小樽で熟成させます。残糖はありません。

Cole Ranch Riesling 2022
蜜の香りに青リンゴ、白い花。酸高く、ジューシーな味わい。残糖なしなのでキリリとした味わいです。92点

次はシャルドネ2本。H.Klopp Chardonnay 2020とDoc's Ranch JoAnn's Block Chardonnay 2020です。
H. Kloppの畑はロシアン・リバー・ヴァレーのセバストポール・ヒルズと呼ばれる地域にあります。ウエスト・ソノマ・コーストのマップの中で色が薄く表示されている右下のあたり。ここは元々AVAに含めたかった場所ですが、他のAVAとオーバーラップする領域が認められないように制度が変わったために、含められなかったところです。現在はSebastopol Hillsという名前でAVAを申請しています。
Klopp家は古くからこの地域で果樹園などをやっており1990年代からはブドウも作り始めました。2012年に新しい畑を増やすためにロス・コブに依頼をして、開発したのがこのシャルドネの畑で、シャルドネだけが植わっています。
樽発酵樽熟成で10%新樽で22カ月熟成しています。MLFは100%。アルコール度数12.3%というのはちょっと驚きました。
焼きリンゴやマシュマロ、蜜のような甘い香り、バニラ、オレンジ。香りにリッチ感はありますが、上述のようにアルコール度数は低く、味わいも濃すぎることなく、うまい。リッチで柑橘系の味わいのあるマウント・エデン・クローンやトロピカルな風味が出るロバート・ヤング・クローンの良さが引き出されているようです。素晴らしい。96点

Doc's RanchのJoAnn's Blockはわずか1エーカーのシャルドネのみのブロックです。一番スタンダードなウェンテ・クローンであるUCD5を使っています。
シュール・リーでうまみを引き出しているとのこと。MLF100%。

花の香り、クリーム・ブリュレ、複雑でリッチなワイン。92点

最後はピノ・ノワール3種です。Doc's Ranch 2019、Rice-Spivak 2021、Coastlands 2021。

Doc's Ranch 2019はシルキーなテクスチャーが印象的。赤い果実や花の香りがあり豊かな酸があります。93点

Rice-Spivak(ライス・スピーヴァック)はロシアン・リバー・ヴァレーに含まれる畑。少し低地にあり冷気がたまるため、非常に冷涼なところだといいます。ゴールドリッジと火山灰による土壌でアロマやミネラル感を感じやすいとのこと。
バランスよくきれいなワイン。赤い果実に少しコクがあって複雑、酸はDoc's Ranchよりちょっと低い。94点

最後はCoastlands 2021です。一番タンニンがあり、グリップを感じます。これも赤い果実に複雑な風味。ジューシーさと複雑さでこれが一番好きでした。95点

コブのワインは、どれもアルコール度数は低めですが、味わいは淡白でなく、しっかりとしたフレーバーがあります。これだけ低糖度でフェノール類はしっかりとたまるということは、やはりかなりの冷涼さがあることがうかがえます。今回6種類を試飲することで、改めてそのレベルの高さを感じました。